Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第356号(2015.06.05発行)

第356号(2015.06.05 発行)

国際的な事故情報の共有に向けて~船舶事故ハザードマップ・グローバル版~

[KEYWORDS] 運輸安全委員会/船舶事故ハザードマップ/事故再発防止
国土交通省運輸安全委員会海事部会長◆庄司邦昭

国土交通省運輸安全委員会は、2014年4月から諸外国の船舶事故調査機関が公表している調査報告書を閲覧できるようにした「船舶事故ハザードマップ・グローバル版(J-MARISIS)」の運用を開始した。
船舶事故情報のグローバル化によって、船舶事故の原因や安全対策の情報を国際的に共有することは、かけがえのない人命や貴重な財産の損失および環境汚染を伴う船舶事故の再発防止に不可欠である。


はじめに

■海事部会の議長を務める筆者

運輸安全委員会の海事部門では、毎年約1,000件の船舶事故およびインシデントを取り上げ、委員長と委員4人で構成される海事部会、委員3人で構成される海事専門部会において事故等調査報告書案を審議し、議決した報告書を国土交通大臣へ提出するとともにホームページで公表している。
インシデントとは、事故が発生するおそれがあると認められる事態を指し、2013(平成25)年6月に関門航路で発生した自動車運搬船AUTO BANNERと練習艦しまゆきの接近事例などが挙げられる。
事故調査に当たる機関は、対象船の国籍や発生海域によるため、2012(平成24)年1月にイタリアで旅客船コスタ・コンコルディアが座礁・転覆した事故はイタリアが、2014(平成26)年3月に発生した旅客フェリーセウォルの沈没事故は大韓民国が調査を行う。日本の領海内で発生した事故は外国籍船舶でも日本の運輸安全委員会が調査を行い、日本籍船舶による海外での事故も運輸安全委員会が調査するが、海賊行為のような意図的な破壊行動によるものは、日本籍船舶が被害に遭っても取り扱わない。

船舶事故ハザードマップとは

公表した事故等調査報告書を有効に活用していただくため、地図上に事故の発生場所を示して報告書の概要や全文を閲覧できる「船舶事故ハザードマップ」※1は、2013(平成25)年5月末からインターネットサービス(無料・登録不要)として提供を始め、Ocean Newsletter No.317(2013年10月20日)でも紹介させていただいた。
同年9月から英語版の運用も開始したところであるが、船舶事故の調査報告書は国ごとの判断で公表されており、海外を航行する際に予定航行海域で発生した外国の事故情報も閲覧できるようにして欲しいとの要望を受け、2014(平成26)年4月から諸外国の船舶事故調査機関が公表している調査報告書を閲覧できるようにした「船舶事故ハザードマップ・グローバル版(J-MARISIS)」(図1)の運用を開始した。

船舶事故情報のグローバル化

J-MARISISの船舶事故情報については、2013年9月にスイスで行われた第9回欧州船舶事故調査官会議(EMAIIF9、19カ国が参加)および同年10月に韓国で開催された第22回国際船舶事故調査官会議(MAIIF22、24の国および地域が参加)において紹介し、オーストラリア、フランス、オランダ、イギリス、アメリカ、ニュージーランドおよびカナダの7カ国から賛同を得て、運用開始当初は約400件の調査報告書を閲覧できるところからスタートした。
また、J-MARISISのさらなる国際的な周知を図るため、国際海事機関(IMO)の第1回IMO規則実施小委員会(2014年7月開催)に情報提供のための文書を提出し、J-MARISISの目的および機能ならびに船舶事故情報のグローバル化などについて紹介を行った。
その後も各種国際会議等でJ-MARISISの紹介およびデータの提供依頼をしたところ、さらに、ドイツ、インドネシア、バハマおよびノルウェーの4カ国から賛同を得て、現在、11カ国のデータを当委員会のシステムに取り込むことで、各国の事故調査機関が公表している約600件の調査報告書を閲覧することができるようになっている。

J-MARISISの概要

J-MARISISは、世界地図に船舶事故の発生場所を示し、表示された事故のマークをクリックすると事故名、発生年月日、事故の概要、調査国といった情報を見ることができ、事故名をクリックすることで各国の船舶事故調査機関が公表している調査報告書のホームページにリンクしている(図2)。
さらに、事故情報の表示は、発生年月、発生時間帯、事故種類、船舶種類、総トン数、キーワード等による検索が可能である。
このような船舶事故情報の提供は、世界的にも初めての取り組みで、これまで国内外の海事関係団体、教育機関、船会社等へ意見照会したところ、船舶所有者、運航管理者および船員に対する安全対策向上のための有効なツールであるとの評価をいただき、船籍国や船舶番号による検索ができるようにして欲しいといった要望もいただいているところである。


■図2:事故情報等の表示例

おわりに

これまで、各国の事故調査機関が調査報告書を公表しているが、船舶事故の原因や安全対策の情報を国際的に共有することは、かけがえのない人命や貴重な財産の損失および環境汚染を伴う船舶事故の再発防止に不可欠であると考えられることから、今後、さらに多くの国々の事故調査機関から情報を得て、各種国際機関や国内外の海事関係団体のご協力もいただきながら、J-MARISISをより見やすくするとともに内容を充実させることにより、船舶事故の再発防止および被害の軽減に役立てていく必要がある。
なお、J-MARISISに先だって運用を始めた船舶事故ハザードマップについても、国内外のデータと国内事故調査報告書の英文化の拡充に加え、最近のインターネットサイト利用の情勢を踏まえ、スマートフォンやタブレットによる利便性の向上を図るためにモバイル版を構築中である。
船舶事故ハザードマップおよびJ-MARISISをさらに充実させていくため、皆様のご支援、ご協力をお願いするとともに、ご覧いただいたご感想やご意見をいただければ幸いである。(了)

● 船舶事故ハザードマップおよびJ-MARISISへの意見・要望は運輸安全委員会ホームページの「ご意見・お問い合わせ」からお願いします。

第356号(2015.06.05発行)のその他の記事

ページトップ