Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第356号(2015.06.05発行)

第356号(2015.06.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆法政大学法学部の下斗米伸夫氏によるロシアの東方シフト論をみて、不凍港というキーワードが頭に浮かんだ。北方に位置するロシアが冬季にも海面が凍らない不凍港の獲得を目指した南下政策を歴代進めてきたことはよく知られている。バレンツ海のムルマンスク、バルト海のカリーニングラード、黒海のセヴァストポリ、日本海のウラジオストックやナホトカが不凍港の例である。クリミア戦争はロマノフ朝ロシアとオスマントルコの間における長期にわたる露土戦争のなかでも、英仏を巻き込んだ大きな戦争であった。1850年代当時、ユーラシア大陸の西方でロシアがトルコや英仏諸国と争っている最中、東方では米国のペリー提督が1853年日本に来航し、神奈川で日米和親条約を締結した。その翌年、ロシアは日露和親条約を結んでいる。
◆しかも、1860年にはロシアは英仏と歩調をあわせて清国との間でアロー戦争終結の北京条約を締結している。地球温暖化時代にある現在、ロシアの海洋政策上の地政学的関心は不凍港問題から北極圏航路をめぐる問題へとシフトしつつある。時代の転換点と言えるかもしれないだけに、今後とも注目しておきたい。
◆19世紀当時、ロシアや米国はカムチャツカからアラスカにいたる極北域でサケ資源の獲得に奔走した。サケは塩蔵して輸送されたほか、当時から急激に発展した缶詰技術により軍用食として多用されたこともよく知られている。氷を使った冷蔵・冷凍技術の発達した今日、鮮魚の鮮度維持に関して画期的なスラリーアイス技術が開発されている。高知工科大学の松本泰典氏によると、高知県中土佐町で新しいブランド魚を創生する事業にスラリーアイスが流通面を含めて注目を集めているという。スラリーアイスは聞きなれない用語であるが、0.1~0.5mmの氷粒子がもたらす効果に目を見張る思いだ。こちらの氷はキナ臭くも生臭くもない楽しい話だ。コスト面を含めた今後の展開と発展を大いに期待したい。
◆上述したクリミア戦争では、黒海の海洋事情に疎かった停泊中のフランス海軍艦隊が嵐のために大打撃をこうむった。これを契機としてフランスでは気象や天気予報に関する科学と技術が発展し、その後世界中に広まったとされている。当時、ロシアとフランスが黒海での事故情報を共有することはなかったであろうが、現代では海洋での事故情報を検索するシステムが開発されている。国土交通省運輸安全委員会の庄司邦昭氏の指摘するように船舶事故の国際的なマッピング情報を未来に生かすための情報の提供と共有を日本主導で是非とも進めていただきたいものだ。(秋道)

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