Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第348号(2015.02.05発行)

第348号(2015.02.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆沖縄の慶良間諸島が国立公園になって1年近くが経過した。慶良間諸島ではダイビングや釣りのほか、ザトウクジラのホエール・ウォッチングが著名であり、国立公園に登録前から自然保全と経済振興との共存が議論されてきた。琉球列島を世界遺産に登録する動きもあるが、米軍基地や尖閣列島を圏内にもつ地域の観光をどのように進めるべきであろうか。国交省総合政策局海洋政策課長の大沼俊之氏は、海洋観光の主軸に経済活性化と海洋管理を据える視点を提示されている。2本の柱は無関係であってはならない。かつて石垣島でサンゴ礁を埋め立てて新空港を建設する案が頓挫したことを思いだす。一歩踏み込んだ政策の実現は地域ごとの情況を踏まえたものであるべきで、前記の2つの柱をつなぐことのできるコーディネータの養成と地域間連携が今年の大きな課題となるだろう。
◆水族館は海洋観光の一環となる施設でもある。日本は水族館大国を自認し、その施設数は世界随一である。(公社)日本動物園水族館協会に加盟する水族館数は67であり、2011年の調査では年間100万人以上の入館者数を誇る水族館は美ら海水族館、海遊館をはじめ全国に6施設ある。ただし、美ら海水族館以外は大都市部にある。水族館では誰もが楽しめるアミューズメント性が工夫されており、イルカ、ペンギン、オットセイなどのショウやタッチプールを提供する施設も昔に比べて増えた。こうしたなかで、目の不自由な若者たちにも水族へのイメージを膨らませてもらう取り組みを進めているのが筑波大学附属視覚特別支援学校教諭の武井洋子氏である。ハリセンボンを手で触る場では、とげを立てた状態とそうでない状態を合わせて感じてもらうなど、アイデア勝負だと感心した。ついでに語ると、太平洋のキリバス(ギルバート諸島)では、ハリセンボンの魚皮をヘルメット状に加工した武具で接近戦を戦った。サメの皮はワサビおろし用に、サメの歯は握り具の武器になった話もある。人間とのかかわりを含めた教育現場でのさらなる取り組みを期待したい。
◆かつて水族館の大水槽にイワシの群れを入れておいたところ、大型魚が全部食べてしまったというニュースがあった。イワシが群れを成すことで大型魚の捕食を回避する群生行動といえるが、1個体ずつが密着して血管を通じて一つの大きな群体をなし、エネルギー消費も抑えるというイタボヤの話を興味深く拝見した。大阪教育大学の仲矢史雄特任准教授はホヤの個体と群との関係から、生命における個体性と群体性のもつ意味について考察しておられる。ホヤは原索動物であり人間のような脊索動物ではないが、それだけに群れを成す進化的な機能を育んできた。水族館で大水槽を眺める観客の群れは水槽の中の魚にとってどのように映るのだろうか。(秋道)

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