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オーシャンニューズレター

第348号(2015.02.05発行)

第348号(2015.02.05 発行)

海洋観光の振興について

[KEYWORDS]観光/経済活性化/海洋管理
国土交通省総合政策局海洋政策課長◆大沼俊之

「海洋観光」について、国土交通省総合政策局海洋政策課では、有識者による検討会の開催を通じ、施策の体系化と課題・方向性の整理を試みた。この結果、海洋観光に関する施策の側面として「経済の活性化」という観光共通の側面に加え、「海洋の管理」のツールとしての役割が認識された。
検討会の取りまとめ後、クルーズ振興等数値目標に基づく施策展開が始まるなどの進展があるが、さらに各方面の施策展開の検討を深めていきたい。

はじめに

わが国は、四方を海に囲まれ、海水浴や海の幸はもとより、海辺の景観鑑賞、マリンレジャー、船旅等々、自覚しているかどうかは別にして、国民が「観光」の素材としての海に触れる、あるいは海を楽しむ場面が内陸国に比べれば格段に多い国柄といえます。
こうした特性にも着目し、2013(平成25)年4月に閣議決定された海洋基本計画では、海洋観光の推進が海洋国家日本を支えていく施策の一つとして位置づけられているところです。
しかしながら、「海洋観光」という語のもと、その意義、そこで推進されるべき施策のありようが体系的にとらえられたことは今までになく、とらえた先に何が見えてくるのかということも判然としておりませんでした。
このような問題意識の下、国土交通省総合政策局海洋政策課では、昨年1月から6月まで、関係有識者からなる「海洋観光の振興に関する検討会」(以下「検討会」)を開催し(http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/ocean_policy/sosei_ocean_tk_000018.html)、海洋観光の意義・施策体系等について整理を行い、施策の推進の方向性について取りまとめましたので、本稿では、これをご紹介することにより、海洋観光を俯瞰するとともに、これを受けた取り組みの状況について報告したいと思います。

海洋観光の施策体系

■図1:海洋観光の施策体系図

海洋観光に関する施策体系の整理にあたっては、まず、海洋観光をどう定義するかが問題となるところであり、当然ながら、検討会でも様々な意見が提示されました。最終的には、できる限り射程を広く考えることが合目的であるという考え方のもと、この語で想起され得る取り組みを可能な限り網羅的に捕捉できるよう「海洋に関わる観光資源及び自然状況並びに海上交通を利用、活用する観光」と定義しました。
その上で、施策の体系化にあたっては、海洋観光の持つ属性・性質に着目して整理することとして議論を進めた結果、これらを代表する要素として、「経済の活性化」と「海洋の管理」という2つの側面があることに着目し、これを次頁の図のとおりさらに分化させることで、2つの軸とそれを構成する2つの柱に最終的に整理することとしました(図1)。
観光が「経済の活性化」の側面を持つのは、海洋観光に限らず、あらゆる観光に共通する要素である一方、「海洋の管理」の側面は、海洋へのわが国の管轄権の確立手段としての観光の有用性に着目した切り口でありますから、海洋観光ならではの軸と言えます。
この軸にぶら下がる施策の方向性は、必然的に「海洋の管理」に係る周知・啓発的な取り組みの推進となりますが、具体的な取り組みのあり方については、例えば遠隔離島へのツアーの商品化や海洋教育的取り組みの一環としての若年層の参加する行事の振興等、今後深掘りして検討すべきものはいろいろあるように思われます。
一方で、この施策の体系化は、施策の性質・属性に着目したアプローチであるため、個別の施策がどれにあてはまるのかを具体的にみたときに、例えば、前述の遠隔離島のツアーの振興は「海洋の管理」を意識したものではありますが、もう一つの軸の「経済の活性化」の側面も当然持つように、体系図の各所・あるいは全部に跨ってしまうといったことが生じてしまいます。このため、検討会で同時に議論を重ねた個別施策の課題や方向性の整理は、むしろ次の7つの要素、(1)海洋観光の魅力の発掘・磨き上げ、(2)魅力の情報発信手法、(3)産業創出・振興、(4)離島振興、(5)わが国海洋の周知・啓発、(6)海洋観光に係る人材の育成、(7)関係者の連携に収斂して整理することが適当であるとの結論となり、この要素ごとの取り組みの方向性や具体的施策例を列記して示すこととしました。詳細は検討会で取りまとめられた『海洋観光の振興に関する最終とりまとめ』※1をご参照いただきたいと思います。

海洋観光に関するその後の取り組み─クルーズの事例

以上のような体系化・課題整理を受けた海洋観光に関するその後の取り組みですが、まず「経済の活性化」という視点から、「2020年にクルーズ100万人時代を実現する」ことが、『観光立国実現に向けたアクションプログラム2014』(平成26年6月17日観光立国推進関係閣僚会議決定)で盛り込まれ、今後、旅客船ターミナルの整備やクルーズ客の円滑な周遊を可能とするための情報発信の強化等ハード・ソフト両面での施策が展開されることとなりました。海洋観光の分野で、初めて数値目標が導入された事例であり、実績が年間約20万人とまだまだ伸びしろがあると見られているクルーズ市場について、今後、テコ入れがされていくこととなります。

海洋観光に関するシンポジウム2015

「経済の活性化」という視点からの施策は、上記クルーズを筆頭に、関係者を所管する部局において今後様々なメニューが展開されていくでありましょうし、それを常に推進する観点で注視していくことが重要ですが、施策体系のもう一つの軸である「海洋の管理」のツールとしての観光の具体的な展開については、前述のとおりまだまだ検討・分析していく余地が大きいものと思われます。
こういった問題意識も含め、海洋観光の今後の可能性について皆様にも思索を巡らして頂きたく、当課では、来る2月13日(金)に「海洋観光に関するシンポジウム2015」※2を開催することとしております。
このシンポジウムでは南鳥島、沖の鳥島ツアーを村民向けに企画された小笠原村総務課企画政策室長の樋口博氏の基調講演のほか、検討会の座長である矢ヶ崎紀子東洋大准教授のコーディネートの下、有識者の方々によるパネルディスカッションを実施する予定です。ぜひ多くの皆様にご参加いただき、ご一緒に考えを深めていただきたいと思います。(了)

※1 『海洋観光の振興に関する最終とりまとめ』 http://www.mlit.go.jp/common/001045580.pdf
※2 「海洋観光に関するシンポジウム2015」 http://www.mlit.go.jp/report/press/sogo11_hh_000034.html

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