Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第347号(2015.01.20発行)

第347号(2015.01.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆新春第二号をお送りする。今号が読者のもとに届くのは大寒を過ぎ立春に向かう頃になる。木々の新芽は厚く纏った殻の中で寒風をやり過ごし、草花の種は地中にあって、芽吹き、花開く時を待つ。新たな四季の担い手にとってはいわば雌伏の時である。いかに異常気象が起きようとも季節は確かな足取りで巡ってくる。それを愛でる私たちのみが年々歳々過去のかなたに押しやられていく。それゆえに、この自然界の輪廻の素晴らしさを一層深く感じられるのかもしれない。
◆最近、書店の店頭に老子、荘子、孫子、孔子など中国古代の思想家の教えを解説した書物を多く見かけるようになった。自然環境と生物多様性の変化、変動にどう対処し、産業、エネルギー政策とどのようにバランスさせるのか、老子のいう牧歌的な小国寡民策は果たして現実的なのか、大国衆民の道を突き進む新興国の台頭にどう対応すべきなのか、マネジメントはいかにあるべきなのか、こうした難しい課題に人々の関心が高いからに違いない。
◆科学技術や自然認識の著しい進展、生活インフラや様式の大きな違いこそあっても、これらは紀元前から思想家たちが挑戦してきた問題であり、簡単な答えがみつかるはずもない。大切なことは、正確に現実を把握し、すべての利害関係者がその情報を共有し、ともに考え、よりよい方策を練って行動していくこと、その協働プロセスを持続的な仕組みにしていくことなのではあるまいか。このCo-work, Co-design, Co-productのプロセスは、計算科学技術の進展、ビッグデータの取得と処理技術の進展と相まって、新しい統合的な科学哲学を生む可能性がある。
◆今号の最初のオピニオンはポール・ケンチ氏によるものである。サンゴ礁の島の海岸線がダイナミックに変わり続けている図に驚かれた読者も多いことと思う。島嶼の問題を考えるにあたって、まずは科学的知見の蓄積が重要であることを端的に示すものとして、貴重な論考をいただいた。
◆ついで西田清徳氏には開設25周年を迎えた大阪の水族館「海遊館」の理念について解説していただいた。これまでに6,500万人以上の来館者があったという。驚くべき数字である。約40億年前に地球生命が誕生して以来、地球と生命は相互作用をしながら進化し、現在の地球環境と生物多様性を生み出してきた。「海遊館」の成功は、この自然と生命の神秘さ、不思議さを社会の人々と共感する場として不可欠な存在になっているということを示している。「海遊館」の更なる進化が楽しみである。
◆今号の最後を飾るオピニオンは中井精一氏によるもので、富山湾の出世魚ぶりから沿岸域と内陸部の食文化の豊かな交流史を描いていただいた。若狭湾や富山湾には、対馬暖流の分枝が時折、「急潮」として流れ込み、特に冬場には暖かい海水が大気を不安定にして、嵐や雷を励起する。「あゆの風」は、古来、漁師には自然の厳しさを示す一方で豊かな海の幸をもたらす「餐(あえ)の風」でもあったようだ。中井氏の地域性豊かな解説を楽しみながら、40年近く前に今は亡き友人と福井丸で行った「急潮」観測を懐かしく思い起こした。(山形)

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