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オーシャンニューズレター

第347号(2015.01.20発行)

第347号(2015.01.20 発行)

海面上昇とサンゴ礁の島々のダイナミズム

[KEYWORDS]海面上昇/サンゴ礁の島々/地形変化
オークランド大学環境学部教授◆Paul Kench

サンゴ礁の島々が海面上昇の影響で沈降し、その結果島の住民が環境難民となってしまうと一般的に予想されている。しかし、最新の研究では、これらの島々はわれわれの予想より海面上昇に対して強い抵抗力を持つことが示唆されており、海面上昇に飲み込まれ、嵐によって浸食されるのみの受動的な岩塊ではなく、変動する海面に反応して動くことや、成長することさえもできる動態的(ダイナミック)な構造物であると考えられている。

海面上昇と太平洋諸島

低地のサンゴ礁の島々が海面上昇の影響で沈降し、その結果島の住民が環境難民となってしまうと一般的に予想されている。しかし、最新の研究では、これらの小さな島々はわれわれの予想より海面上昇に対して強い抵抗力を持つことが示唆されている。研究結果によると、これらの島々は、海面上昇に飲み込まれ、嵐によって浸食されるのみの受動的な岩塊ではなく、変動する海面に反応して動くことや、成長することさえもできる動態的(ダイナミック)な構造物であると考えられる。
むろん、これらの小さな国々が重大な環境問題に直面しないというわけではない。砂と小石で形成され、海面より僅か1~3メートルの標高に位置する中央太平洋およびインド洋のサンゴ礁の島々は、やはり地球上で最も海面上昇に対して脆弱な場所である。これらの島々が将来沈降せずに生き残る可能性はあるが、海面上昇の変化は、やはり真水や農業などに影響を及ぼし、島々の生活は今日よりも遥かに困難になるであろう。

長期間にわたるサンゴ礁の島々の形成

われわれはこれらの島々が将来どのように変化するのかを突き止めるため、サンゴ礁の島々が過去の海面変化に応じて5,000年をかけてどのように形成されたかについて詳細な調査を行った。
最近の研究で、中部太平洋のマーシャル諸島のジャボット島が5,000年前に、海面が現在より1.5メートル上昇したために形成されたことが判明した。その後、海面が再び沈降したことにより、ジャボット島は現在の海面よりかなり高い海抜にとどまっている。次の一世紀にかけて、海面の水位は再びジャボット島が形成された当時の位置まで上昇するのではないかと予想される。この発見は、グレート・バリア・リーフとモルジブにおけるわれわれのケーススタディと一致しており、これら島々は海面の上昇、沈下および安定・維持、など様々な条件の下で推移することになるであろう。
これらの研究から考えれば、海面上昇だけがサンゴ礁の島々の形成とその後の変化を規定している主要な要因ではないということである。このようなプロセスは島々を形成する充分な砂と小石を周辺のサンゴ礁が生み出しているかどうかにも関わることである。

過去一世紀に見られる変化

■図1:1896年から2005年にかけて、ツバルのフナフティ環礁にあるテプカ島の植生の沿岸線に見られる変化

また、われわれは過去60年から100年間でこれらの島々が物理的にどのような変化を遂げたのかにも着目した。われわれの研究サイトは太平洋にあり、そこでは、過去50年間で毎年2mm以上海面が上昇していた。歴史地図、航空写真や衛星画像を比較することで、われわれは中部太平洋諸島の浸食が海面の上昇により始まったという仮説を検証することができた。
これを立証する一つの例は中部太平洋のフナフティ島にある環礁である。われわれの研究によると、海面の上昇にもかかわらず、これらの環礁は数十年の間大きさが変わらないか、あるいは拡大化していることが判明した(図参照)。
もう一つの研究では、同じくマーシャル諸島のノックス環礁で、1905年に発生した台風により破壊されたにもかかわらず、これまでの一世紀の間で、再びその島々が形成されていることが判明した。これらの研究により、サンゴ礁の島々は現在の気候条件の下でも成長できることが証明されている。

動態的地形であるサンゴ礁の島々

このことから、サンゴ礁の島々は礁の表面上において数十年間をかけて形状や位置を調整できる、非常に動態的地形(時間軸に応じて変化していく地形)であることを示唆している。低地のサンゴ礁の島々は波浪や潮流の作用によって形成され、その結果海岸線に砂や砂利が堆積する。他の海岸と同様に、波浪と潮流の動きが変わることで、サンゴ礁の島々の砂や砂利が移動し、海岸線の他の場所に堆積する。絶え間なく続くこのプロセスによって、サンゴ礁の島々は各々の形状を変え、礁の表面上を移動することができるのである。
われわれの現在の研究目標はこれらの変化の規模および速度を解明することである。そしてそれは島々の共同体の人々の海面上昇への適応を支援するのに不可欠である。
またもう一つの問題はサンゴ礁の島々が海面上昇に応じて垂直方向に形成されるか否かである。われわれの研究結果は、台風や津波の際に波浪がサンゴ礁の島々に押し寄せ、砂が堆積することにより、島の標高が高くなることを示唆している。このことは島々が海面の上昇と激しさを増す暴風雨に耐え得る可能性を示唆している。もっともその時には、それらの島々の生活は、今日とは全く異なるものとなるかもしれないが。

サンゴ礁の島々の動態性が意味すること

一見すると、われわれの研究結果は低地のサンゴ礁の島々の村落に住む人々に吉報をもたらすことになろう。彼らがわが家と呼ぶ島が、一般的に思われているよりも海面上昇に対して脆弱ではないかもしれないからだ。またわれわれの研究結果は、国際的国境紛争の問題にとって重要な境界標でもあるこれらの島々が将来も生き残ることを示唆するものである。
しかし、たとえ海面の上昇によってこれらの島々が沈降しないとしても、これらの島々の大きさや礁の表面上における位置が変化する可能性は大いにある。これらの変化の度合いは、海面が上昇するにつれて増大するかもしれないのだ。
今後、これら島の地形変化の要素を理解することが、政策の決定に助言を与え、太平洋諸国の将来を確保し、かつ領土問題を解決するためには、重要であると考える。(了)

● 本稿は英語で寄稿いただいた原文を翻訳・まとめたものです。原文は当財団HP(/opri/projects/information/newsletter/backnumber/2015/347_1.html)でご覧いただけます。

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