Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第346号(2015.01.05発行)

第346号(2015.01.05 発行)

総合海洋政策本部参与会議の取り組み

[KEYWORDS]プロジェクトチーム(PT)/海洋資源開発/人材育成
総合海洋政策本部参与会議座長◆宮原耕治

わが国の海洋政策については、総合海洋政策本部の設立以来、多くの進展を見せた一方で、まだ多くの課題も残されている。
総合海洋政策本部参与会議は、本部長(内閣総理大臣)に意見を述べるため、2014年7月に4つのプロジェクトチーム(PT)を立ち上げ、海洋政策における重要課題について議論を推進している。

総合海洋政策本部参与会議の役割

■総合海洋政策本部参与名簿(平成26年9月1日現在)

総合海洋政策本部は、2007(平成19)年に成立した海洋基本法に基づき、内閣総理大臣を本部長、全閣僚を本部員として、海洋に関する施策を集中的かつ総合的に推進する政府機関であり、その中に海洋に関する施策に係わる重要事項について審議し、総合海洋政策本部長(内閣総理大臣)に意見を述べるため参与会議が設置されている。
筆者は別掲の通り2014(平成26)年6月に参与に就任し座長に選任された。海洋政策については、総合海洋政策本部の設立以来、多くの進展を見せた一方で、まだ多くの課題が残されている。このため、官民が一体となって課題の解決に取り組むことの必要性を認識しつつ、海洋基本計画に掲げる施策の実施について、参与のメンバーとともに様々な視点から議論を進め、総合海洋政策本部長に進言する意見を取りまとめてまいりたい。

海洋資源開発をめぐる動き

日本のエネルギー輸入先は多様化している。原油や天然ガスなど化石燃料を見ると、中東の他に、ブラジルの海底油田、北米のシェールガスなど、新たな事業の場が広がりつつある。特に、油田・ガス田については、海洋の比率が上昇する見込みである。
日本の造船業各社はブラジル現地企業との協業などで海洋開発分野に積極的に取り組んでおり、成果が期待される。今後は、ブラジルだけでなく、日本国内での新たな事業展開に向けた強固な地盤の形成につなげていくことが望まれる。
海洋開発の新分野は、企業にとって多くの経営資源を投入しリスクをとることも求められる挑戦的な分野である。世界で競争を勝ち抜くには、産業界の自助努力に加えて、国による技術開発の援助やファイナンスの支援などの後押しが不可欠である。2014(平成26)年8月に、総理のブラジル訪問に係る日伯戦略的グローバルパートナーシップ構築に関する共同声明が発表されたが、このようなトップセールスによる国の支援も重要である。

参与会議の4つのプロジェクトチーム(PT)の設置

■総理のブラジル訪問に係る日伯戦略的
グローバルパートナーシップ構築に関する共同声明
(平成26年8月1日 於:ブラジリア)(抜粋)
『両首脳は、(中略)海洋資源開発のための関連産業に関する協力を推し進めることで一致した。』

安倍総理大臣とルセフ大統領

このように日本の産業界にとってビジネス機会が広がる中、官民が協力して海洋に関する課題に取り組むことの重要性は増している。総合海洋政策本部参与会議は、具体的な検討の場として、4つのPT((1)新海洋産業振興・創出PT、(2)海域の利用の促進等のあり方PT、(3)海洋環境の保全等のあり方PT、(4)海洋産業人材育成・教育PT)を2014(平成26)年7月に立ち上げ、検討を開始した。各PTは、2015(平成27)年3月をめどに検討を進めており、宇宙政策とも連携して議論を推進している。
1つ目の新海洋産業振興・創出PTでは、石油・ガス・メタンハイドレートなどの海洋資源をどのように探査・開発し産業化していくかが課題であり、このPTの主なテーマは三点ある。第一は、日本近海の資源・エネルギーの開発である。日本の排他的経済水域等にはメタンハイドレート、海底熱水鉱床などが存在するが、これらの探査・開発を官民協力して効率的に進め、将来の事業化につなげていくことが課題である。第二に、洋上風力発電など海洋再生可能エネルギーの利用促進である。第三は、海洋資源開発関連のリグやプラントなどの海洋構造物について、どのように日本の製造業の国際競争力を高め、またその国際的なオペレーションについて日本の海事産業が参入できるかを検討することである。
2つ目の海域の利用の促進等のあり方PTにおいては、海洋産業(含む海洋再生可能エネルギー産業)の振興のため、例えば海洋再生可能エネルギーの開発・利用に係る法令や制度について、諸外国およびわが国による制定・適用・実施に関する網羅的な比較考査を行い、それら相違点等の背景・理由について明確化するなど、わが国が取り組むべき課題の検討を通じて、海域の効率的・効果的な利用のあり方を考察する。考察にあたっては、2014年7月の総合海洋政策本部会合で本部長(総理)より「領海やEEZの管理については、海洋産業を振興するため、海域利用者や環境に十分配慮し、利用調整の円滑な仕組みづくりが必要。この観点から、必要に応じ法整備も検討する等、関係省庁で連携して取り組んで頂きたい」との指示を参照することとしている。
3つ目の海洋の環境保全については、わが国単独では完結しないグローバルな課題が多い。海洋環境の保全に際しては、国際協調を図りつつ、各種取り組みを推進することが重要となる。海洋環境の保全等のあり方PTにおいては、海洋の開発・利用と環境保全との調和を図るため、開発・利用と環境保全が二律背反であるかのような考え方を払拭し、沿岸域を含めた排他的経済水域における環境保全の実態及び海洋環境保全に関する国際的な動向について把握した上で、海洋生物多様性の保全、沿岸域、閉鎖性水域の汚濁負荷の削減、地球温暖化に伴う海洋環境の変動や海洋酸性化問題など、今後の課題と対応を検討する。こうした議論が、ゆくゆくは環境に配慮した開発技術の確立や海外発信にも結び付けばと願うところである。
4つ目に、海洋に関連する事業機会の増大が見込まれる中、海洋開発技術者の人材は圧倒的に不足している。海洋産業人材育成・教育PTにおいては、海洋開発を支える人材の育成に向けて具体的な仕組みの構築について議論、検討している。造船・海運に関しては、大学には積み重ねてきたノウハウがあるので、既存の人材育成の方法をブラッシュアップして、新たなニーズに対応した人材育成の担い手の役割を果たすことが求められている。例えば、東京海洋大学が2017(平成29)年に海洋環境エネルギー学部を創設することを公表したが、注目される。大学教育の充実に加えて、日本の未来を担う児童・生徒の世代に対する海洋教育は、人材確保に直結するテーマである。進路として海事分野に関心を示すようにするためには、日本の海洋国家としてのあり方を生徒たちに伝える充実した教育カリキュラムを構築しなければならない。

日本は古くから「海洋国家」であり、従来から海洋利用が盛んであるが、新しい海洋産業も急速に拡大しており、開発と環境の調和を考慮し、諸外国と協調しつつ、日本の国益を考えていくことが必須であると考えている。(了)

第346号(2015.01.05発行)のその他の記事

  • 総合海洋政策本部参与会議の取り組み 総合海洋政策本部参与会議座長◆宮原耕治
  • 海のジパング計画について 東京大学名誉教授、内閣府戦略的イノベーションプログラム(SIP)プログラムディレクター◆浦辺徹郎
  • 海で世界観が変わる 東京工業大学名誉教授◆本川達雄
  • 編集後記 ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

ページトップ