Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第343号(2014.11.20発行)

第343号(2014.11.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆今年は10月末に早くも木枯らし1号が関西、関東地方を吹き荒れた。この冬には極端な気象現象が起きないことを願う。米国の海洋大気庁がまとめたデータによると最近の33年間で10億ドル以上の損害を出した気象/気候災害(Billion-Dollar Weather/Climate Disaster)は170件もあり、損害総額は1兆ドルを超えているという。日本においても気象庁の出す特別警報の回数が急激に増え、社会経済活動への負の効果が無視できなくなっている。わが国でも全国レベルで気象/気候損害統計を準備する必要がある。
◆昨今、排他的経済水域や領海に不法侵入する外国船が増え、一般市民でも国際法について触れる機会が多くなった。近代的な主権国家と国際法の概念が明確になったのは1648年のウエストファリア条約によるというのが定説である。カトリック派とプロテスタント派の宗教戦争に始まり、次第に政治的な色合いを濃くしていった30年戦争に疲弊したヨーロッパの国々は国際法の下で陸続きの相手国政治には関与しないことでガバナンスの領域を確定したのであった。一方、ほぼ同じ頃、縁辺海を活用した海上交流が活発化し、国家のアイデンティティの希薄化を招いていた東アジアでは、海を通した交流を制限し、海域にはガバナンスを拡張しない鎖国政策によって近世の平和が保たれた。矮小化された意味ではあるが、同じく西欧発の概念である公海の自由の原則とは意外に整合的な部分が見られる。昨今、国連海洋法は時代の変化とともに様々なほころびも目立つという(「海洋法条約発効20周年―海洋秩序の将来」奥脇直也(本誌No.335))。このような状況にあって、日本海洋政策学会は12月6日に明治大学駿河台キャンパスにおいて「海洋ガバナンスと日本 国連海洋法条約の発効20周年にあたって」の統一テーマの下で年次大会を企画している(http://oceanpolicy.jp/)。読者の方々の参加を促したい。
◆今号は第3回小島嶼開発途上国国際会議に出席された寺島紘士氏にその歴史と本財団の活動について紹介していただいた。小島嶼開発途上国は気候変化・変動や環境問題の厳しい荒波に晒され、これに持続的に対処するために国際ネットワークを必要としている。寺島氏が提唱し、今回採択された「島と海のネット」構想が大きく発展し、わが国の「見える国際貢献」になることを期待している。◆一木重夫、平賀秀明、石村学志の三氏には、目下、大きな話題になっている中国漁船団による宝石サンゴ違法操業を取り上げていただいた。200隻を超える漁船が小笠原諸島周辺に、まるで蒙古襲来のように押し寄せている現状は異常である。持続可能な社会と環境の実現に向けて、中国当局が効果的なリーダーシップを発揮することができるならば、未来の地球にとって大きな曙光となるであろう。
◆今号の最後のオピニオンは行平真也氏による臼杵市の大型魚カマガリによる地域振興策の話題である。行政機関と地域の人々が一体となって協働することの成功例がここにもみられる。カマガリの生態系調査などとも連携し、持続的な水産振興を期待したい。(山形)

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