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オーシャンニューズレター

第343号(2014.11.20発行)

第343号(2014.11.20 発行)

第3回小島嶼開発途上国(SIDS) 国際会議と日本

[KEYWORDS]第3回小島嶼開発途上国(SIDS)国際会議/「島と海のネット」/太平洋島嶼国
海洋政策研究財団常務理事◆寺島紘士

9月にサモアで第3回小島嶼開発途上国国際会議が開催され、今後10年間の小島嶼国の持続可能な開発のための行動計画が採択された。それに参加した海洋政策研究財団は、太平洋地域の関係者と協力してサイドイベントを開催し、様々な関係者による国際的な協働ネットワーク「島と海のネット」を立ち上げた。
今後これを基盤として、主としてわが国に身近な太平洋地域において島と海に関する政策の実施を推進していくこととしている。

第3回SIDS国際会議開催

国連主催の第3回小島嶼開発途上国(SIDS)国際会議が、9月1~4日に南太平洋のサモアで開催された。これは、2012年の「リオ+20」が、SIDSの持続可能な開発のための「バルバドス行動計画」(1994年採択)、「モーリシャス戦略」(2005年採択)を関係者が協調・協力して推進するために3回目のSIDS国際会議開催を決めたことを受けたものである。
今回の会議には、SIDSの持続可能な開発を達成するためには広範な国際的連帯が必要という認識の下に、国連やSIDSなどの首脳を筆頭に国連、加盟国、国際機関等および地方政府・科学技術・産業界・女性・ユースの関係者など、およそ3,500人が参加した。そして最終日には、今後10年間の行動計画として「SIDS Accelerated Modalities Of Action [S.A.M.O.A.] Pathways(小島嶼開発途上国行動モダリティ推進の道)」を採択した。

海洋政策研究財団、サイドイベント開催

■サイドイベント、左から、共同議長のケンチントン教授と寺島常務、レメンゲサウ大統領、宮森外務省上席専門官

会議では、国連正式メンバーによる総会、および政府、国際機関、NGOグループが参加する「多分野関係者間パートナーシップ対話」が連日開催されるとともに、並行して、サイドイベント等が開催された。国連NGO資格を有する海洋政策研究財団もこの会議に国連のメジャーグループの一員として参加し、連日、多分野関係者間パートナーシップ対話等に出席するとともに、9月3日にはサイドイベント『島と周辺海域のより良い保全と管理に向けて』をウーロンゴン大学オーストラリア国立海洋資源・安全保障センター(ANCORS)および太平洋島嶼国の関係機関の協力を得て開催した。
大洋上に点在するSIDSは、いろいろな問題に直面している。グロ-バル化の島の経済・生活への影響、国連海洋法条約に基づく島の周辺の排他的経済水域(EEZ)の管理、さらに、海面の上昇などの気候変動の影響である。SIDSは、これらに対応して、島とその周辺海域の開発、利用、保全、管理に取り組んでいるがなかなか容易ではない。また、SIDSに対する国際社会の支援・協力も、現状では十分な効果を上げているとは言い難い。
海洋政策研究財団では、そのような小島嶼国の厳しい状況を見て、5年前からANCORSおよび太平洋島嶼国の関係機関とともに、太平洋島嶼国による島とその周辺海域の持続可能な開発・利用、保全、管理に焦点を当てて研究を進め、島嶼国および国際社会がそれぞれとるべき政策を取りまとめ、国連その他関係方面に政策提言を行ってきた。今回のSIDS会議で採択された行動計画にも私たちの政策提言が多く採り入れられている。今後の課題は、これら政策の着実な実行である。
そこで当財団では、様々な関係者が、島およびその周辺海域の持続可能な開発・利用と適切な保全と管理に向けて、今後どのように連携協力して政策の実行を推進していくかを話し合うために本イベントを開催した。幸い、このイベントには、パラオ共和国のレメンゲサウ大統領をはじめこの問題に関心を持つ多くの人々が参加した。

「島と海のネット」(Island Ocean Net)設立

イベントでは、開会挨拶に続いて参加者による発表やディスカッションが行われた。それを受けて、主催者から、今後島と周辺海域の持続可能な開発・利用とより良い保全と管理を実施していくために国際的な協働ネットワークの設立を提案したところ、南太平洋大学(USP)、太平洋地域環境計画事務局(SPREP)、太平洋ユース会議(PYC)、などから支持する発言が相次ぎ、イベント参加者全体が賛同して、「島と海のネット」の設立宣言が採択された。国際社会と島嶼国の様々な関係者が、島と海に関する政策の実施にそれぞれの立場、専門分野等を超えて連携協力して取り組む「島と海のネット」設立に対する関係者の期待は大きい。その事務局を務める海洋政策研究財団では、目下、この主旨に賛同する様々な組織・グループ等に「島と海のネット」への参加を呼びかけているところであり、関心のある方々からのご連絡をお待ちしている。

太平洋地域の変化

■南太平洋のEEZ図

今回、SIDS国際会議に出席してみて、わが国は日本列島の南の太平洋地域とそこに浮かぶ島々に拠る島嶼国をもっと重視すべきではないかとの思いを強くした。かつては、ミクロネシアなど太平洋の島々は日本人にとってもっと身近であったが、太平洋戦争での悲惨な体験、その後の日本の経済発展、グローバル化の進展の中で、知らず知らずに、太平洋地域への日本人の関心が薄れてきていたことは否めない。しかし、太平洋地域はこの半世紀ほどの間に大きく変化しており、そのことを私たちはきちんと受け止めてこなかったのではないか、と思う。
太平洋地域で起こった変化とは、ひとつは太平洋の島々の独立である。20世紀の後半になると、それまで国連信託統治領または先進国等の海外領土であった太平洋に点在する島々が次々と独立して、国際社会の一員となった。すなわち、1962年のサモア独立国を皮切りに1994年までにナウル共和国、トンガ王国、フィジー共和国、パプアニューギニア独立国、ソロモン諸島、ツバル、キリバス共和国、バヌアツ共和国、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島共和国、パラオ共和国と順次独立した。そしてこれらの国々は太平洋島嶼国として連帯する活動を強めており、わが国は、南太平洋上の小島嶼国を国際政治上のパートナーとしてきちんと認識する必要がある。
太平洋地域のもうひとつの大きな変化は、国連海洋法条約によりもたらされた。1994年の発効により、これらの小島嶼国はその周辺200海里の広大なEEZを管理するようになったのである。世界地図を広げてそこに各国のEEZを書き込んでみると、今や、広大な太平洋の西と南の大半がこれらの国々のEEZである。特に、太平洋の日本からオーストラリアの間はほとんどが小島嶼国のEEZで占められている。

太平洋地域重視を提案

太平洋の島々は、この半世紀ほどの間に島嶼国家(群)としてその国際的立場を大きく向上させ、わが国としても重視すべきパートナーとなってきている。
これらの島嶼国は、ほとんどが洋上に浮かぶ小さな島々に拠る人口数十万から数万の小さな国であり、懸命に島とその周辺海域の開発、利用、保全、管理に取り組んではいるが、独力でEEZの管理等を行うのはなかなか容易ではない。島嶼国である日本が、ともに太平洋の海の恵みを享受する隣国として、また、海洋に関する知識・技術の先進国として、太平洋島嶼国と連携協力してこれらに取り組むことは、双方のため、また人類のためになることである。わが国が、外交や民間交流のなかで太平洋地域および太平洋の小島嶼国をパートナーとしてもっと重視していくことを提案したい。(了)

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