Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第341号(2014.10.20発行)

第341号(2014.10.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆どこからか漂う金木犀の香りにふと足がとまる。「み山路や いつより秋の色ならむ 見ざりし雲の夕暮れの空」(新古今和歌集 巻第四 秋歌上)。天台座主を務めた僧慈円が詠んだように、山路の秋行を楽しむ季節の到来である。しかし、長野県と岐阜県の県境にある御嶽山の突然の噴火は、爽やかな秋の週末を楽しんでいた多くの登山者の命を奪ってしまった。この夏に続発した気象災害に続き、今度は火山による災害である。
◆自然現象についての観測データを解釈し、未来を予測するのは自然科学分野の仕事であるが、その科学情報を人々が理解しやすい適切な形にして発信するには、行政分野はもちろん社会科学分野との連携も欠かせない。残念ながら、わが国では、このような学際連携は極めて弱い。事前の対応にとどまらず、心のケアを含む事後の対応についても、さまざまな関係者(ステークホールダー)が協働する地域協議会のような枠組みが平常時から準備されていると効果的なのではないだろうか。
◆平安初期には富士山の貞観大噴火があり、その数年後に大きな貞観地震が発生するなど地殻変動が活発であった。天台宗が各地に広まり、民衆に安らぎをもたらしたのもこの時期である。東日本大震災以降、日本列島は再び地殻変動の活発期に入ったのではないかといわれている。今こそ、人々の安全を保障し、安らかに住める社会の構築に向けて連携体制も強めておく必要がある。
◆今号の最初のオピニオンは、古来、御食(みけつ)国として知られてきた福井県小浜市において沿岸域の総合的管理を推進している松崎晃治氏によるものである。世代を超えて海の恵みを持続的に利活用していくためにも、地域の声を聞き、関係者が一体となって施策を進める「海のまちづくり協議会」方式が全国各地に広まることを期待したい。このような地域協議会の不断の活動は、万一の災害発生時にも有効であろう。
◆藤田孝志氏には備前市の日生(ひなせ)中学校で進めている海洋学習活動を紹介していただいた。地元漁協の協力の下、アマモ場の再生活動に主体的に加わることから中学生達が海洋環境の保全と海洋の利活用の関係を総合的に学び、成長している。これは持続可能な未来社会に向けた確かな一歩といえるだろう。
◆本号の最後のオピニオンは藤本直也氏の海洋工学に関するものである。陸上のロボットコンテストはテレビなどでもよく放映されるのでご存知の読者も多いことと思う。ここで紹介されているのは自動操縦で海上を走りつつ、海中探査や障害物避行などの五課題を課せられる海上ロボットのコンテストである。その第一回国際大会が近々シンガポールで開催されるという。海洋を身近な活動空間にするには、若者を引き付けるこうした魅力的な試みが必要である。海底ロボットコンテストの企画も続いてほしいものだ。(山形)

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