Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第339号(2014.09.20発行)

第339号(2014.09.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆西日本と北日本に記録的な大雨をもたらし、大規模な洪水被害や土砂災害を引き起こした平成26年の夏はようやく去った。しかし被災地の復興を妨げる大気の不安定な状況は未だに続いている。この夏、西日本では2003年以来11年ぶりの冷夏となったが、2003年は熱帯太平洋にエルニーニョ現象が発生した年であった。今年もその兆候が春先から見られたが、予測に反して充分に発達することはなかった。しかしインド洋に太平洋のエルニーニョ現象に相当する負のダイポールモード現象が予測通りに発生し、チベット高気圧や小笠原高気圧の発達を抑制したようだ。この夏の異常な天候の分析は季節予測の精度を更に向上させるのは間違いない。
◆折しも、8月中旬にモントリオールで気象研究の未来を展望する大きな会議(World Weather Open Science Conference 2014)が開催され、筆者も招かれた。この会議では、地球温暖化の下で異常気象や極端現象が頻発し、社会生活や産業活動に大きな影響を及ぼしている現状を鑑み、日々の天気から季節までを連続的に予測して、防災、減災情報等を社会に発信する世界気象機関(World Meteorological Organization)の次期プログラムが活発に議論された。月末にはニュージーランド王立アカデミーの招聘によりオークランドで国際科学会議(International Science Council)が開催された。ここでも持続可能な「未来の地球(Future Earth)」をめざす国際計画をいかに推進するかが中心テーマであった。持続可能な社会形成をめざして、社会のための科学(Science for Society)の研究が様々な分野でますます活発化するであろう。フィールズ賞などを授与する組織でもある国際数学者会議の代表者が「未来の地球」計画を推進することを高らかに宣言したのは象徴的であった。
◆「未来の地球」計画に重要な要素はステークホールダーと共にデザインし(Co-design)、協働し(Co-work)、作り上げていく(Co-production)ことである。今号の最初のオピニオンでは田中邦幸氏に海無し県である栃木県の馬頭高校水産科の地域社会と連携した優れた取り組み(Good Practice)を紹介していただいた。若い世代が持続可能な社会形成に取り組みながら個を確立していくのを支援するのは、まさに「未来の地球」計画の精神に叶うものであろう。次いで、内田詮三氏にもう一つのGood Practiceを紹介していただいた。地域の特性を活かした巨大な魚類ジンベイザメとマンタの飼育活動は沖縄美ら海水族館を国際的に有名にしたが、同時に環境教育面においても、また地域の観光振興の面においても効果的な活動になっているということである。
◆今号の最後を飾るオピニオンは「語り部」として活躍されている平野啓子氏にお願いした。言霊(ことだま)ともいわれる大和言葉の力と美しさを世界にさらに広く展開していただきたいと思う。エルトゥールル号の脚本の話に触れて、本誌にご寄稿くださった故寬仁親王殿下の温顔を思い出さずにはいられなかった。(山形)

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