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オーシャンニュースレター

第336号(2014.08.05発行)

第336号(2014.08.05 発行)

カリフォルニアの深刻な干ばつ被害

[KEYWORDS]干ばつ/水資源管理/エルニーニョ現象
Parsons Corporation社副社長、環境およびインフラ部門担当◆Ane D. Deister

カリフォルニア州は深刻な干ばつと水不足の状態にある。2014年1月には、Jerry Brown州知事が干ばつの異常事態宣言を発表し、被害軽減の戦略策定を指示している。
干ばつ対策とともに水資源政策が急がれるが、二つの主要な水源地域は、重大な政治的対立、論争、水源管理を巡る衝突などに加えて、深刻な干ばつと洪水を交互に引き起こす気候変動のために、極度の緊張と混乱にさらされている。

カリフォルニア州の干ばつの現状

カリフォルニア州政府は、州全域におよぶ深刻な干ばつ状況下で、被害の軽減活動に追われている。水資源管理官は、2013年が記録に残る最も激しい乾燥の年であり、2014年も変化があまり期待出来ないと明言している。2014年1月17日には、Jerry Brown州知事が干ばつの異常事態宣言を発表し、極度の乾燥状態への対処に必要なあらゆる対策と措置をとるように州当局に指示した。
フォルソム湖は州都サクラメント近郊にある。写真は、湖が今までになく低水位になったのを目撃した地元住民が携帯電話で撮影したものである。湖の中心まで歩いて行けるのは前代未聞である。
今、干ばつの被害を最も痛感しているのは、水の使用制限措置がとられている農村である。また、都市部や地方においても山火事が予測されることから、州全体で裸地化および限られた防火材の共有計画が進められている。水の利用者は、過去の水使用量実績の30%分の節約を求められ、カリフォルニアの沿岸域の広大な灌漑農地と水不足地域の住民は困惑している。州政府は水の節約と分配制度のより厳格な措置を策定・実施するために、多くの対策を準備している。

干ばつ対策の留意点

州政府が干ばつ被害軽減の戦略策定を継続する一方で、米国地質調査所(USGS)は、干ばつ対策戦略を策定するにあたっては、二つの側面に留意する必要を指摘している。一つは、水路や河川の水流減少、貯水池・湖、井戸水の水位低下、そして地表植生の乾燥などの、明白な被害である。もう一つは、干ばつの長期化により地盤沈下、生態系への被害、そして海水の侵入などが起こり、手に負えなくなるほど深刻なものになる。これら長期的被害はしばしば見過ごされてしまう。水道局の管理者は、過去何十年もの間、多くの場所で起こる塩水侵入に悩まされてきた。セントラルバレーでは、農業に化学品が使用され、その塩分が土壌に堆積するため、その塩分処理の包括的計画を策定する必要が生じている。処理水がゴルフコースへの撒水に使用されている地域では、総溶解不純固形物(TDS)が堆積するので、その削減処理という更なる措置を必要としてきた。

二つの水資源とその環境管理

しかし、もっとも難しい問題の一つは沿岸地域の環境である。カリフォルニア州では約2,400万人が沿岸から10~15マイルのところに居住している。沿岸地域における真水の供給は充分ではなく、多くの人々は、二つの主要な供給源に大きく依存している。その一つは、サクラメント、サンホアキン河川地帯およびサンフランシスコ湾デルタ地帯のベイデルタと総称される地域と、もう一つはコロラド川(CR)である。これらの二つの主要な水源地域は重大な政治的対立、論争、水源管理を巡る衝突などに加えて、深刻な干ばつと洪水を交互に引き起こす気候変動のために、極度の緊張と混乱にさらされている。干ばつの期間におけるCRの管理は、米国西部の7つの州がCRの水供給を共有しているため、とりわけ複雑な状況下にある。何十年もの間、水配分に関連した問題処理に取り組むため数多くの行政介入が行われてきた。長期化する干ばつによりCRの水源が圧迫されたために、2010年に米国内務省開拓局は二年半の調査を開始し、次の五十年間におけるCRからの水の供給と需要の不均衡を予測し、その不均衡の解決策を策定し、評価することを決定した。カリフォルニアが干ばつ状態の解決をCRのみに託すことが期待できないのは明らかである。
カリフォルニアのベイデルタの管理は、何十年にもわたる水資源政策を巡る対立に翻弄され、しばしば水資源管理の崩壊が指摘されてきた。水の供給源は州の北方にあり、中央部渓谷の農家や南カリフォルニアの都市部の水処理施設、そして究極的には多数の住民利用者に水を運ぶために、貯水池、搬送施設、それらに付随するポンプ設備などの入り組んだシステムを通して、水が取り入れられ、利用されていく。同時に、魚類や野生動物を保護し、保存するために、ベイデルタ河口へ充分な真水を流し続けるための水需要は増大し、そのために環境規則が強化され、水の供給量と搬水の時間制限も行われるようになった。


■カリフォルニア、フォルソム湖、17%容水量

債券条例のゆくえ

水道局はベイデルタの生態系地帯を迂回し、水を中央部渓谷と南カリフォルニアにもっと直接的に搬送する方策として、1965年に周辺を循環する運河の建設を提案した。その提案は条例化の投票対象となり票決が行われ1982年に否決された。水をめぐる対立は続き、そこに最近の干ばつが重なって、ベイデルタをめぐる対立問題はさらに深刻化した。こうした圧力が高まった結果、ベイデルタ保全計画(BDCP)が設定された。BDCPは、住民が使用する真水の必要性と魚類や野生生物の生息する河口の環境を維持する必要性を考慮し、生態系保護と水の安定供給の二つの目標を掲げた。運河の支持者は、運河が現存の生態系への被害を抑制し、カリフォルニア州の中央部と南部の住民に対する信頼性のある水供給を確保出来ると主張する。一方、反対者は、運河がデルタへの真水の総流量を減らし、真水と塩水の境界を更に内陸側に移動させ、その結果、デルタで行われている農業と河口の生態系に害を及ぼすと反論する。この論争は州議会が水利事業債券を発行する条例を2014年11月のカリフォルニアの投票にかければ、ある程度決着するであろう。その債券発行総額については80億ドルとも110億ドルとも議論されているが、それを州全体の水需要を満たすために、どのような事業に配分するかは、債券条例が指定することになる。

2014年エルニーニョ現象による干ばつ回避の可能性

カリフォルニアにとって2014年は、沿岸地域から内陸の砂漠環境に至るすべての水利用者にとり、最も深刻な年となる恐れがある。しかし、気候変動予測専門家グループは世界の気候動向に関して、楽観的なニュースを公表している。2014年4月21日の「グローバルニュース」で、気候学者の Jessica Blundenは「NOAAの気象予報センターによる現在の大勢の観測では、今年の後半、夏か秋にエルニーニョ現象が起こる確率は50%以上である。北アメリカでは米国の南方地帯全域で例年よりも降雨量が多いと予測される」と述べている。水利管理者は歴史上最悪の干ばつに対し奮闘し続けているが、こうした予報はカリフォルニアにとっては吉報である。米国西部の住民の多くが、現在の水危機に対してカリフォルニア州が如何に対処するかを注視している。カリフォルニアの水利管理者は、この危機によって革新の機会が生まれると強調し、多くの人は持続可能な統合的水管理の必要性が以前にも増して高まる好機とみている。これらの問題には急速な進展や様々な解決策の可能性があるため、海洋変動の最新情報や報告に注目したい。(了)

※ 本稿は英語で寄稿いただいた原文を翻訳・まとめたものです。原文は当財団HP(/opri/projects/information/newsletter/backnumber/2014/336_2.html)でご覧頂けます。

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