Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第336号(2014.08.05発行)

第336号(2014.08.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆今年3月8日、クアラルンプールから北京に向かうマレーシア航空機が消息を絶った。本来なら北へと向かうはずが、機体は反対方向のインド洋上で姿を消した。謎につつまれた今回の事故について、元パイロットで日本ヒューマンファクター研究所研究主幹の本江彰氏は戦後期における洋上墜落事故を振り返り、興味ある視点を提示されている。大洋上の飛行時間に180分の上限があること、エンジン性能の改良で一部207分に拡大されていることを知った。洋上での航空機事故では事故解明にボイスレコーダーとフライトレコーダーの回収が決め手になるとはいえ、数百~数千mの海底からその計器を探り当てるのはきわめて困難であることが理解できた。しかも、探査に要する経費は莫大であり、国力次第という指摘は今後日本が熟慮すべき課題となるだろう。
◆日本は温帯モンスーン下にあり、年間平均で約1,700mmの降水量がある。台風や集中豪雨による土砂災害や河川の氾濫は困ったものだが、列島は河川水や地下水の恩恵を受けてきたこともたしかだ。ところが降水量が年間500mm以下の地域になると、水の獲得をめぐる矛盾や対立と環境問題が先鋭化する。アジアの半乾燥・乾燥地帯では、中国における黄河断流、中央アジアのアラル海の消滅などが顕著な例である。本号でパーソンズ・コーポレーション社副社長のA.ダイスター氏によると、北米のカリフォルニア州は深刻な干ばつと水不足の状態にある。やっかいなことに、北米西岸で発生している気候変動による少雨の影響をも蒙っているという。水は本来だれのものでもない共有財といえるが、人間が利用する枠組みではオーバーユースの傾向に陥りやすい。水資源を有限なものとしてその管理と適正な配分をはかる政策の立案は不可欠であるが、水の配分と環境影響とともに地球規模の気候変動を踏まえた取り組みの必要性が今後検討されるべきだろう。
◆そのカリフォルニア州がゴールドラッシュに沸いていた1848年以降はちょうど日本の幕末期にあたる。太平洋における米国捕鯨船の補給港として開国を迫ったペリーの来日から10数年後に徳川幕府が崩壊した。すでに1860年までに箱館(函館)、下田、神奈川、長崎を開港していた日本では、1868年1月、米、仏、英の軍船が兵庫港(神戸)の開港を迫るため大坂湾に集結していた。ちょうどその激動時の将軍、徳川慶喜がとった脱出劇の一部始終について、横浜国立大学客員教授の中原裕幸氏は興味ある史実を紹介されている。中国では1842年に阿片戦争が終結し、清国の敗北が幕府にも伝えられた。西洋の脅威にたいして幕府は同年、薪水給付令を出し西洋船にたいしての燃料となる薪と水の給与を決めている。徳川慶喜がどのように当時の世界情勢を知り、自ら退くことを決意したのか。激動期の世界における日本の位置をあらためて見直す契機としたい。(秋道)

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