Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第334号(2014.07.05発行)

第334号(2014.07.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆東日本大震災から3年数カ月をへた時点で、福島第一原子力発電所の汚水処理が依然として大きな課題となっている。本誌で東京大学大学院農学生命科学研究科の金子豊二教授は放射性セシウムによる水生生物の汚染問題にふれ、セシウムの挙動に関する興味深い実験結果を提示されている。魚の鰓にある塩類細胞からセシウムが排出されるあたりのミクロな話は素人にはむつかしい面があるとはいえ、食の安全性に直接つながる問題であるだけに今後とも注目すべきだ。セシウム濃度は水生生物の食物連鎖における栄養段階によっても異なるので、水産業従事者や食品業界に福音となる結果を期待したいものだ。
◆2004年12月26日に発生したM9.1のスマトラ沖地震・インド洋大津波では、広い地域に甚大な被害をもたらした。復興が進むなかでいろいろな問題が露呈した。タイの現地で調査した広島大学の山尾政博教授によると、アンダマン海沿岸では被災した漁民を救済するためにハタ類やバラマンディの蓄養生け簀が津波前よりも多く造られた結果、魚の需要増にともなう資源の減少が懸念されているという。釣り具メーカーの株式会社天龍会長である塩澤美芳氏は、資源の減少が顕著であったバラマンディ(タイ語でプラー・カ・ポン)についてJICAによる種苗生産技術が大きな役割を果たし、タイ国民の食卓になくてはならない魚となっていることに言及されている。天然資源の減少に歯止めをかける増養殖技術の可能性は限りなく大きい。
◆バラマンディは美味であるがハタ類にくらべて値段も安い。ただし、他の地域では問題もあった。かつてパプアニューギニアでは河川を遡上するノーザン・バラマンディが鉱山による水銀中毒に汚染される事態があった。1980年代に現地で調査をおこなったさい、現地住民が鉱山開発のさし止めをせまる争議にでくわした。豪州の鉱山技師が大きなバラマンディは食べないようにとの弁明をしたことで、住民の不満が増幅した。安全・安心は福島における水生生物の放射能汚染だけの問題にかぎらない。水銀は排出されずそのまま魚体内に蓄積されるからだ。水俣病の教訓と記憶は日本人として決して忘れるべきことではない。
◆塩澤氏のご指摘通り、日本ではバラマンディとおなじラテス属(Lates)のアカメが生息する。著名な例が高知県の四万十川である。四万十川のある中村市の南西側に、宇和海と太平洋に面する大月町がある。本誌でもかつて大月町の柏島にあるNPO法人黒潮実感センターについて紹介していただいたことがある(第113号参照)。大月町立大月小学校長の鎌田勇人先生は地域の特性を最大限に生かした、海洋教育プログラムを実践されておられる。「最幸の学校」づくりの取り組みは想像するだけでもうらやましい限りである。東日本大震災のあと、今後予想される南海・東南海大地震に備え、大月小学校でも海洋教育の重要な取り組みとして防災教育がなされているにちがいない。海に親しみ、海を学ぶ未来の世代を育てる先生方にエールを送りたい。(秋道)

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