Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第334号(2014.07.05発行)

第334号(2014.07.05 発行)

地域の特色を生かした総合的な学習の取り組み

[KEYWORDS]地域学習/山・川・海のつながり/特色ある教育活動
高知県幡多郡大月町立大月小学校長◆鎌田勇人

私たちの住む高知県大月町は、すばらしい自然、すばらしい人々に恵まれ、その中で子どもたちはすくすくと育っている。しかし、産業の衰えとともに、少子高齢化が進み、大月小学校でも2009年の統合から10年後には100人近い児童の減少が予想される。
このような危機的な状況を打開するためには、学校・家庭・地域・行政が力を合わせ、未来の大月町のビジョンを描かなければならない。

『最幸の学校』づくりをめざして

『最幸の学校』をつくりましょう。校長になって6年目、常に私が学校経営理念に掲げているテーマである。学校に関わるすべての人々が「幸せ」を感じるそんな学校づくりを心がけ、学校経営を行っている。私の考える『最幸の学校』とは、子どもにとって授業が分かり、友だちと仲良く遊べる「楽しい学校」であること。教職員にとって「子どもの成長が感じられ、やりがいのある学校」であること。保護者・地域にとって「子どもを安心してあずけられ、信頼できる学校」であることなどと考える。
本校は、2009(平成21)年4月に町内9小学校が統合して新設された学校で、大月町全域が校区となっており、児童数216名、統合6年目を迎える町内唯一の小学校である。大月町の地域や保護者は、昔から教育熱心な土地柄で、学校教育に対する期待や関心は高く、何ごとに対しても積極的で惜しみない協力をしてくれている。統合前は、それぞれの小学校校区で地域と一体となった特色ある教育活動が営まれていた。統合大月小学校でも教育目標を「新しい時代を拓く、生きる力をもった大月っ子の育成」と設定し、ふるさと大月町を誇りに思い、将来の大月町を担っていくたくましさをもった児童の育成に主眼をおき、地域と一体となった教育活動を展開していきたいと考えている。

地域の自然や人材を生かした地域学習

■写真1

■写真2

■写真3

大月町は、高知県の西南端にあり温暖な気候風土に恵まれ、漁業と農業が町の基幹産業である他、柏島など足摺宇和海国立公園に指定された区域内の自然美や海中景観が全国的にも注目を集めている。大月小学校は、統合前にそれぞれの学校が行ってきた、地域の特性を生かした地域学習を継承する形で、総合的な学習に位置づけ、活動を行っている。
例えば、1年生では近くの研究機関である(公財)黒潮生物研究所の協力を得て、磯の生物と触れ合う『するぎの浜』体験を行っている。午前中は研究所の中で身近な海の生き物のイソギンチャクやヒトデなどを使ってクイズやゲームで遊び、午後からは実際に浜に出て魚やカニ、エビなどを捕まえて大月の海の豊かさを知るという、海への導入的な活動を取り入れている(写真1)。
2年生では、山に少し視点を移し、森林の働きや川・海との関係を学習した後、木工クラフトを行い、森林資源の素晴らしさについて学習を深めている。
3年生では、視点を「人や環境」に移し、四国遍路に来る人々のために、道しるべ札を作成し、それを毎年、国道321号線沿いの遍路通り道の木々につるして、お遍路さんを励ます活動を行っている。たくさんのお遍路さんからお礼の手紙や励ましの言葉をもらい、それがまた、子どもたちの次へのやりがいにも繋がっている。その他、海を越えて渡りを行うアサギマダラという蝶を観察するため、その餌や吸蜜用となるキジョランやフジバカマを植え、アサギマダラの飛来を定期的に観察している。
4年生では、5年生で行う炭焼き体験の事前学習として、森林学習を実施して森や林の働きについて学び、海岸部に多く見られるウバメガシなどの観察を行っている。
5年生では、炭焼きや米作り等の体験学習を実施している。今年度からは、1泊2日の宿泊学習を地元の柏島をフィールドに行い、マグロの養殖場見学や、海の素材を使った郷土料理(すり身のテンプラ・こうし飯※1)、夜の生物観察会、シュノーケリング等々の体験活動を通じて、地元の海を満喫できる内容となっている(写真2)。
6年生ではヒノキの間伐材を利用した、アオリイカの人工産卵床作り(写真3)など、大月町の自然環境を生かした取り組みを進めると共に、様々な地域を訪れ、広範囲になった校区を知る活動も行っている。これらの活動を系統的に継続していくことで、自分たちの住む大月町の素晴らしさを気づかせたい。子どもたちにとって今ある風景や環境はいつも目にしている当たり前のものであるが、その当たり前にあるものが、実は価値の高いものであるということを私たちは伝えていく義務がある。

子どもは地域の宝

大月町にはNPO法人黒潮実感センター(柏島)や(公財)黒潮生物研究所(西泊)などの海洋研究の専門機関があり、それらの研究機関との連携を図っている。ゲストティーチャーや講師として定期的に来校してもらったり、資料の提供などをしてもらっている。また様々な体験活動では、たくさんの職業の方々(漁師・農家等)、地域のお年寄り等との交流が図られており、町の全ての人々が「子どもは地域の宝」を共通した思いとしてもっている。これらの活動や人々との出会いが、郷土を愛し郷土を誇れる子どもの育成につながると私たちは信じている。一方で、山・川・そして海の繋がりや素晴らしさを子どもたちは学習してきているが、それにかかる移動手段や時間、他教科との関わりなど課題も山積している。
本校のキーワードは、「つながり・かかわり・創造」である。歴史が浅い学校だからこそ、この三つのキーワードの意味をかみしめ、子どもたちが10年、20年後にこの大月町を担う人材に成長できるよう、学校に関わるすべての人々が想いを合わせ、笑顔の絶えない、『最幸の学校』をめざして進んでいきたい。(了)

※1 こうし飯=郷土料理。旧暦の大晦日や、お祝い事に出す。ご飯を醤油と砂糖で味付けし、めのり(岩海苔)やたくあんなどをあわせた混ぜご飯。

第334号(2014.07.05発行)のその他の記事

ページトップ