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オーシャンニューズレター

第331号(2014.05.20発行)

第331号(2014.05.20 発行)

日米パートナーシップの強化~米海軍大学における海上自衛隊の新たな取り組み~

[KEYWORDS]CMSI/RSG(地域安全保障グループ)/Power and Law
海上自衛隊米海軍大学連絡官兼インターナショナル・フェロー◆下平拓哉

これからのアジア太平洋地域の平和と安全を確保していくためには、これまで培ってきた強固な日米同盟関係をより一層深め、海洋における日米パートナーシップを強化することが必要となっている。
本稿では、アジアにリバランスする米海軍のソフトシーパワーの中核的存在である中国海事研究所(CMSI)等の研究態勢と最近のトピックを紹介する。


米海軍大学連絡官兼インターナショナル・フェローとは、昨今のアジア太平洋地域における厳しい安全保障環境を受けて、日米同盟の一層の強化を図るため、昨年海上自衛隊と米海軍が新たに合意した配置であり、特に海洋における日米パートナーシップの強化を目指すものである。ここでは、シーパワーの本家本元である米海軍大学における海洋に係る最新の研究の一端を紹介する。

ソフトシーパワーの中心としての米海軍大学

■今も使われている初代校長の名を冠したルース・ホール

米海軍大学(Naval War College)は、1884年、ロードアイランド州ニューポートに創立された世界最古の軍事大学である。シーパワーの権威A.T.マハン(Alfred Thayer Mahan)は、第2代、4代校長であり、不朽の名著『海上権力史論』をもって、自ら教鞭をとっていた。伝統的な大陸国家である中国の海洋進出が、近年活発化しているなか、マハンの「いかなる国も、シーパワー大国とランドパワー大国を両立することはできない」という言葉が今もって非常に示唆的である。
米海軍大学では、陸・海・空軍、海兵隊をはじめ、沿岸警備隊や政府文官と外国海軍士官等が集い、これまで5万人以上の卒業生を輩出しており、うち現役の提督・将軍・高級官吏が300人にも達している。彼らは、最新の安全保障政策、戦略、統合軍事作戦等を学んでいるが、古典的戦略を教授する順番が、マハンを差し置いて、クラウゼビッツ、孫子、そして次に毛沢東戦略の順であることは非常に興味深い。
これらのソフトシーパワーを支える源が、教授陣である。なかでも、日本と関係が深いアジア太平洋地域の安全保障専門家を配しているのが、中国海事研究所(China Maritime Studies Institute: CMSI)と地域安全保障グループ(Regional Security Group: RSG)である。

中国海事研究所(China Maritime Studies Institute: CMSI)

■2012年CMSI会議で基調講演をするダットン所長とコアメンバー

■アジア太平洋地域の安全保障を守る海上自衛隊幹部学校長(福本 出)と米海軍大学校長(Rear Admiral Walter E. "Ted" Carter, Jr.)

中国の海洋における台頭を踏まえ、2006年に設置されたのがCMSIである。所長とコアメンバーが重要なテーマ設定をし、細部の専門事項については、米海軍大学の教授陣がアフィリエイト(会員)教授としてバックアップ態勢をとっている。CMSIの最近の主な研究領域については、米中関係、近海/遠海海洋戦略、宇宙ミサイル技術、潜水艦戦/対潜水艦戦、通商貿易、民軍関係である。渉猟している資料も広範かつ膨大で、今や、アジア太平洋地域における安全保障問題とは、軍事に限らず、経済、エネルギー、法律も含み、まさに学際化しているのである。中国の南シナ海や東シナ海における活動の拡大と活発化は特に著しい。その中国と日本との関係に関して、ダットン(Peter Dutton)所長が、「中国とはあらゆるレベルで、積極的に対話を進めるとともに、力と法(Power and Law)のアプローチを同時にとること」を強調していることは興味深い。
これからのアジア太平洋地域の平和と安全を確保していくためには、これまで培ってきた強固な日米同盟関係をより一層深めることが必要で、そのためには「力と法」により、日米の主張と行動力の正統性を国際社会に明らかにする努力をしなければならないであろう。弛まない知的挑戦が求められているのである。

7つの地域安全保障グループ(Regional Security Group: RSG)

米海軍大学では、今なお地域研究が活発である。地域研究は、第2次世界大戦中、いわゆる敵国研究として米国で発祥したと言われ、当該地域の特色を把握するため、政治、経済、文化、社会といった学際的なアプローチをとる学問領域である。米海軍大学においては、アジア太平洋、ヨーロッパ/ロシア、中東、インド洋、アフリカ、ラテンアメリカ、北極海の7つの地域安全保障グループが存在し、学内のみならず、学外からも数多くの専門家を招いて活発な議論を展開している。北極海グループは、まさに今年発足したばかりであり、そのおかれた安全保障環境に即応した研究態勢となっている。7つのRSGのコーディネーターをしているローリグ(Terence Roehrig)教授は、「米国のパートナーとともに地域の理解をより深めることが重要」と、パートナーとの協力関係の重要性が一層高まっていることを指摘している。さらに、ローリグ教授は、アジア太平洋地域安全保障グループの責任者でもあり、厳しいアジア太平洋地域の安全保障環境のなかで日本に求められていることは、「平和的な解決のための政治・経済・外交・軍事のバランス」であることを強調している。

おわりに

19世紀の英国宰相パーマストン (Henry John Temple 3rd Viscount Palmerston) は、「国家には永遠の友も同盟国もない。あるのは永遠の国益だけだ」と鋭く国際政治の神髄を突いた。今の日本に求められているのは、最重要な同盟国である米国とともに、ソフトシーパワーを最大限活用することによって、海洋におけるパートナーシップを強化し、国際社会における責任を果たすことではないであろうか。それが、海に生きる海洋国家日本の国益なのである。(了)

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