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オーシャンニューズレター

第331号(2014.05.20発行)

第331号(2014.05.20 発行)

「第1回全国海洋教育サミット」から見えてくる海洋教育の未来

[KEYWORDS]海洋教育/カリキュラム開発/共生
東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター特任教授◆日置光久

全国海洋教育サミットは海洋教育研究の全国集会である。本年2月、第1回全国海洋教育サミットが開催され、国内で個別に行われている海の教育に関する発表が行われた。
多様で多彩な教育実践として、地域性や歴史、産業などを尊重しつつ、子どもにとって価値あるカリキュラム開発を行っていくことが必要である。

第1回全国海洋教育サミットの開催

■図1:海洋教育促進研究センターのロゴマーク
地球、海、子ども、そして海を学ぶこと(クエスチョンマーク)を表しています。
●海洋教育促進研究センター http://rcme.oa.u-tokyo.ac.jp/

東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター(図1)は、海洋基本法第28条に掲げられた「海洋に関する教育の推進」、「海洋に関する政策課題に的確に対応するために必要な知識及び能力を有する人材の育成」を実現するため、2010年に日本財団と東大海洋アライアンスの共同プログラムとして発足し、海洋政策研究財団を加えた3者の連携・協議により事業運営されている。活動のコンセプトは、海に親しみ、海を知り、海を守り、海を活用する教育を初等中等教育において推進・促進することである。「全国海洋教育サミット」は、本センターが開催する海洋教育研究の全国集会である。
わが国は周囲を海で囲まれており、海とのかかわりは深いものがある。生活や産業、文化や芸術、歴史はもとより、最近では資源・エネルギーや環境の視点からも、海への注目は高まっている。近海からメタンハイドレートやマンガンノジュールなどのレアアースが発見され、大きなニュースになったことも記憶に新しい。われわれは、海洋から多大なる恩恵を受けるとともに、海洋環境に少なからぬ影響を与えており、海洋とわれわれ人間の共生は国民的な重要課題であるといえる。しかしながら、教育の世界ではこれらの内容はほとんど扱われていないといっていい状況であり、体系的な「海洋教育」について研究開発を行っていくことが、今求められている。このような問題意識の下、平成26年2月22日、「第1回全国海洋教育サミット」が開催されたのである(図2)。
サミットでは全部で10件の発表が行われた。教育委員会、水族館、高校、大学など多彩なステークホルダーから多様な取り組みの報告がなされた(表1)。その中から、志摩市と気仙沼市の2つの教育委員会の取り組みをもとに、海洋教育の未来について少し考えてみたい。

三重県志摩市教育委員会の取り組み

■図2:全国海洋教育サミットの発表風景

志摩市は、牡蠣養殖、真珠養殖、伊勢エビの刺し網漁が伝統的な産業である。このような地域の特色を学校の教育課程に位置付け、子どもたちに体験活動としてカリキュラムづくりを行っている。教育的に価値づけられた体験活動を通して、子どもたちは郷土の自然(海)に親しみつつ郷土の産業に関心をもち、郷土を愛する心を育んでいる。子どもたちは、卒業時に校長先生から卒業証書とともに真珠のブローチをいただくというエピソードは、印象的であった。
考えてみると、わが国は四方を海に囲まれており、亜熱帯から亜寒帯に位置する南北に細長い国土に世界第6位という長大な海岸線をもっている。海岸線は入り組んでおり、わが国の多くの学校は海から大きく離れていないところに存在している。あらためて「海洋教育」というまでもなく、海とかかわった教育の取り組みがこれまで多様に展開されてきているのである。しかしながら、それらの取り組みは学校ごとに独立しており、共有がなされてきていない。毎年繰り返される、ある種あたりまえの「学校行事」として存続してきたという部分が大きいのではないだろうか。各地で継続されてきたこれらの取り組みを収集・整理し、カリキュラムという文脈の中で新しい価値付けをしていくことには大きな意味があると考えられる。「学びの宝庫」としての海のもつ大きな可能性を、学校の教育の中で再発見できればと考えている。

宮城県気仙沼市教育委員会の取り組み

気仙沼市は、沿岸漁業、遠洋漁業などの水産業の一大基地であり、「国際水産文化都市」を標榜している。東日本大震災では、地震と津波の影響で壊滅的な被害を受けた。しかしながら、震災復興キャッチフレーズは「海と生きる」である。それでも海と生きていくという強烈な覚悟の下に、復興の活力に燃えている。気仙沼の学校の一つの大きな特徴は、ユネスコスクール※1であるということである。わが国でも有数のユネスコスクールモデル地区である。ユネスコスクールで進めるESD※2のコンセプトは、「持続可能性」「多様性」「異文化理解」などがあるが、気仙沼では震災後、新たに「防災」という視点を取り入れたカリキュラム開発を行っている。
世界で発生するマグニチュード6以上の地震の2割以上がわが国周辺で起こっているという厳然たる事実は、われわれが受容せざるを得ない宿命である。しかし、だからこそ、自然と人間との関係性を深く考える授業が可能になってくるのである。それは、わが国が伝統的に育んできた自然との関係性を表す自然への畏敬の念とも整合する。このように考えたとき、わが国のESDの先進地である気仙沼から、世界に向かって新しい自然との「共生」カリキュラムの提案が可能になってくるものと期待される。ユネスコスクールの第2フェーズの展開が見えてくる。

これからの海洋教育

第1回全国海洋教育サミットは、全国で実践されているローカルな「海洋教育」の取り組みが、実はグローバルな課題につながっていることを垣間見せてくれた。海に親しみ、海を知り、海を守り、海と共に生きていくことを学ぶことは、ローカルとグローバルを結ぶことであり、わが国の教育の未来をつくっていくことだと感じている。(了)

※1 ユネスコスクール http://www.unesco-school.jp/
※2 ESD=持続可能な開発のための教育(Education for Sustinable Development)

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