Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第331号(2014.05.20発行)

第331号(2014.05.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆ゴールデンウィークが近づき心弾む頃、晴天の霹靂のごとく飛び込んできたのは悲惨な海難事故のニュースであった。4月16日、大型フェリー「セウォル」が韓国の珍島沖で転覆し、高校生らの多くの命が失われたのである。この悲劇については船舶改造上の問題、過積載と操船、事故発生直後の初動対応の問題、業界と官界の癒着、安全軽視の経営体質、職業倫理の欠如など、多くの問題点が指摘されている。
◆さまざまな営みからなる私たちの社会に完璧なものはない。しなやかで安全な社会を築いていくためには、悲劇から学び、改善していく不断の試みが大切である。リスクマネジメントは? 危機発生時のガバナンスは? 東日本大震災から三年余、わが国の人間安全保障のあり様についても改めて顧みるべき時である。
◆英国の海洋の研究教育機関を訪問してきた。週末に訪れたプリマスでは大航海時代の英国の活動について目を開かれる思いがした。プリマスは新世界の経営を支える奴隷貿易の拠点として繁栄したのである。当時は、東アジア海域においても、倭寇、戦国大名、明、スペイン、ポルトガル、オランダ等による海の覇権が争われていた。略奪地の住民を奴隷として売りさばく南蛮貿易、私掠船による船員略奪により、多くの日本人同胞が、既に世界に分布していた歴史を私たちはもっと知るべきである。1588年9月、歴史的なアルマダ海戦の勝利に湧くプリマスの港町に、ドレーク船長よりも一足早く世界一周航海をなし遂げたキャベンディシュ船長に随って、二人の日本人船員が上陸していた可能性がある。遠隔の地にあっても希望を失わずに生き延びたであろう、こうした人々の人生を思わずにはいられなかった。
◆今号では日置光久氏に「第一回全国海洋教育サミット」について寄稿していただいた。日本財団の支援を受けて、東京大学に海洋アライアンスが導入されたのは2007年である。なかでも海洋教育促進研究センターは海に親しみ、海を知り、海を守り、海を利用する学習を推進する中核として活発な活動を行っている。公教育に携わる人たちは勿論、海洋教育に関係するステークホールダーの裾野は広い。折しも、今年は、ヨハネスブルク・サミットで日本政府とNGOが提案し、ユネスコを中心に推進してきた「持続可能な開発のための教育(ESD)」10年計画の締め括りの年にあたる。持続可能な地球の未来を決めるのは海である。海洋教育の持続的な発展に向けて更に頑張っていただきたい。
◆下平拓哉氏には、日米の海洋パートナーシップの強化に向けて導入された海上自衛隊幹部学校と米海軍大学の連携、特に地域安全保障に向けた学際的な研究体制について紹介していただいた。人間安全保障と同様に、国家安全保障においても、現実世界の冷徹な分析、特に学際的な分析とそれに基づく深い理解が基盤となる。
◆半谷和祐氏には海底、海中構造物などの測量を簡便かつ高精度で行えるマルチビーム測深機について解説していただいた。この機器が、初めて海上保安庁の測量船「拓洋」に導入されてから30年余、東日本大震災からの復興には小型化された第5世代の機器が大いに活躍した。観測や調査によるデータは現実世界と科学論理を繋ぐものである。詳細で正確なデータを大量取得し、迅速に解析する技術が近年著しく進展している。これが、すべての科学、工学分野でイノベーションを起こしていると断言して良いように思う。(山形)

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