Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第329号(2014.04.20発行)

第329号(2014.04.20 発行)

隠岐世界ジオパークの取り組みと持続可能な地域づくり

[KEYWORDS]ジオパーク/ジオツーリズム/持続可能な地域づくり
隠岐世界ジオパーク推進協議会事務局◆中林 豊

2013年に世界認定された隠岐世界ジオパークは、「大地の成り立ち」(地質資源)、「古代から続く人の営み」(歴史、伝統文化)、「独自の生態系」(動植物)の3つが相互に形成された「つながり」をテーマとしている。このため、離島という環境と海洋生物や漁業などの人の営みも重要であると考え、陸域だけではなく海岸から1km以内の海域もあわせたエリアをジオパークの範囲としている。
隠岐は、ジオパーク活動を通じて、地域資源をいかした持続可能な地域づくりを目指している。

ジオパークとは

「ジオ(geo)」は、地球や大地という意味の接頭語で、「ジオパーク」とは、科学的に見て特別に重要で貴重な、あるいは美しい地質遺産を含む一種の自然公園のこと。地質や地形は、地球の歴史を物語っているだけでなく、人の暮らしや文化に直接結びついている。この大地の営みをひとつの遺産として学び、楽しむのがジオパーク。ジオパークの活動は、ユネスコの支援のもと世界ジオパークネットワークが推進する国際的なプログラムである。
隠岐世界ジオパークは島根半島の北40~80kmの日本海に点在する隠岐諸島と周辺海域からなる(図参照)。
隠岐世界ジオパークは、2013年9月9日、韓国済州島で開催されたアジア太平洋ジオパーク国際会議において、世界ジオパークネットワークへの加盟が認められた。

ジオパークのきっかけ

隠岐世界ジオパークの取り組みは、行政による「地域振興」の起爆剤として始まったのではなく、地元有志の取り組みから始まったことが大きな特徴である。
雄大な景観や豊かな自然環境に支えられた観光地隠岐が、近年の、団体から個人・体験型へと観光形態が変化する中、観光客数が年々減少し、それに伴い地域の活力も失われていた。この状況に対して、隠岐の豊かな自然環境や歴史・文化を活用した地域振興、観光振興を目的として、官民協働のまちづくりグループ、風待ち海道倶楽部が2003年(平成15年)に結成された。風待ち海道倶楽部は、地域振興、観光振興を進めるためには、まず地元住民こそが隠岐の魅力を再認識することが重要であると考え、岩石や地層を含めた地質資源と生物、歴史・文化などを学ぶ地域学講座を開催し、エコツーリズム、ひいてはジオパークに通じる土台を作った。
この活動の中で、最も重要なポイントととらえたのが、地質資源、無形文化財を含む人の営み、そして生態系の3つの「つながり」を見つけ出し、専門知識を持たない人たちも楽しめるストーリーを作ることだった。「離島」「海」はこのストーリーの大きなテーマである。

日本海が造る隠岐世界ジオパークの魅力と「つながり」

■海岸漂着ゴミの回収

■シーカヤック

このとおり、離島という環境と海洋生物や漁業などの人の営みも重要であると考え、陸域だけではなく海岸から1km以内の海域もあわせた673.5km2(陸域346.0km2、海域327.5km2)をジオパークの範囲としている。
隠岐世界ジオパークエリアは、大山隠岐国立公園エリアと重なっており、海蝕が著しい外海多島海景観を有している。この自然豊かで広大な隠岐の海の魅力は、ズワイガニ(地方名:マツバガニ)やエッチュウバイ(地方名:シロバイ)、ケンサキイカ(地方名:シロイカ)、アワビなどの多くの有用水産物だけではない。静穏な内湾の海底を棲みかとするウミホタルは外部からの刺激によって幻想的なミルキーブルーの発光物質を体外へ放出する。また秋の限られた期間に海面を青緑色に発光しながら輪を描くように遊泳する発光ゴカイや、緑色のイルミネーションが綺麗な柔らかいサンゴの仲間であるウミサボテンなど、あまり知られていないが、隠岐には海洋発光生物の楽園がある。
生き物を育む場として生態系における重要な役割を果たしている藻場も、隠岐の海岸にはホンダワラ類、クロメなどの海藻やアマモやタチアマモなどの海草が繁茂し、広大な藻場を形成している。さらに、日本で見られる海藻約1,400種のうち唯一の国指定天然記念物であるクロキヅタという貴重な緑藻を容易に見ることができることも特徴である。
また、隠岐の伝統・文化のルーツも海がつないだ交流だ。江戸時代半ばから明治にかけては、北前船の帰港地として栄え、多い年には西郷港(隠岐の島町)だけでも2,000隻以上、隠岐全体では4,500隻が寄港したとも言われている。さらに日本海に浮かぶ離島である隠岐のそれは、国内の関係だけでは理解できない。海で隔てられているからこそ、古くから周辺諸国との「国境の島」であり、大陸と日本列島を結ぶ玄関口であった。今も島内に残る伝統芸能や各種文化の中には、中国、朝鮮半島に由来すると考えられているものがある。

海の利用と保全活動

では保全保護と活用はどうなっているのか。
隠岐世界ジオパークでも、海岸漂着ゴミの回収、貴重な動植物の調査・保護、外来植物の駆除などを通じて、環境保護・保全を行っており、この取り組みには、地域住民、特に子どもたちの参加を促している。また、ジオサイト(ジオパークの見どころ)の解説看板では、動植物の乱獲禁止、ゴミのポイ捨て禁止などを訴えている。ジオツーリズムにおいては、体験型プログラムも充実させている。人力での火おこしや黒曜石の矢じり作り、海から海岸の侵食地形を楽しむシーカヤックなどはすでにその一環として多数催行されている。
ジオパーク活動は、地域資源をいかした持続可能な地域づくり(sustainable development)を、地域住民が主体で行うことが求められている。隠岐はこの面でまさにジオパークらしいジオパークであり、ジオパークの持続的な活用を通じて、海域を含む隠岐の貴重さ、美しさが次世代に引き継がれることだろう。(了)

※ 隠岐世界ジオパークHP http://www.oki-geopark.jp/

第329号(2014.04.20発行)のその他の記事

Page Top