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第329号(2014.04.20発行)

第329号(2014.04.20 発行)

青森県ロジスティクス戦略 ~物流ダイナミズムを見据えた成長戦略~

[KEYWORDS]全方位的海上アプローチ/北東アジアのグローバル物流拠点/海洋国家日本への貢献
青森県知事◆三村申吾

東日本大震災の経験を通じ、全方位的な海上アプローチの良さと物流拠点としてのポテンシャルという大きな強みを改めて認識した青森県では、震災からの創造的復興に向け、この強みを生かした新たな経済成長のシナリオとして「青森県ロジスティクス戦略(平成26年1月)」を策定した。
強みを最大化することによる本県の持続可能な成長と、海洋国家としての日本全体の経済成長への貢献を目指す。

全方位的な海上アプローチの良さ ~青森県のポテンシャル~

遥か1万5千年前、私たちの祖先は、日本最大級の縄文集落跡である特別史跡三内丸山遺跡(青森市)をはじめ、北海道から北東北に残る数多くの縄文遺跡にみられる、高度に発達・成熟した文化を築きあげた。約1万年にもわたる縄文の営みは、豊かな自然環境と海上交易によってもたらされた多くの情報や技術の交流に支えられてきた。中世に入ると、日本海側の十三湊(とさみなと)(五所川原市十三(じゅうさん))は、港湾都市として、西の博多と対比されるほどの繁栄を極め、日本海沿岸の多くの湊とともに日本海運史に名を刻んだ。江戸時代には、北前船の寄港地が環日本海物流に重要な役割を果たし、明治から昭和にかけては、青函連絡船が北海道と本州の物流を担った。現在のフェリー航路もまた国民生活を支える大動脈として機能しており、青森県は海上物流とともに歴史を積み重ね、発展を続けてきた。
私は、先の東日本大震災に際し、県民のいのちを守るという知事としての最大の使命を果たすに当たり、物流こそがまさに生命線であることを身をもって感じた。北東北の物流拠点である八戸港が甚大な被害を受け、被災地の物流に多くの困難をもたらした一方で、八戸港の機能が一定程度回復するまでの間、青森港が函館港と連携し、北海道からの救援物資・人員・車両の集中投入を可能にし、物流のバックアップ機能を果たした。震災の教訓として、国内における物流のリスクヘッジの重要性、そして何よりも、太平洋、日本海、津軽海峡と、三方を海に囲まれ、北海道と本州の結節点である青森県の全方位的な海上アプローチの良さに、そのポテンシャルの高さを再認識した。
今、グローバル化の進展は国際的な物流を増大させ、特に東アジアの港湾は飛躍的な成長を遂げている。30年前、世界の港湾トップ20に入っていた神戸、横浜、東京は大きく後退し、上海やシンガポール、釜山の台頭が著しい。調達物流や製品物流の拠点化は、製造業や倉庫業、流通産業、これらの関連産業の高度集積を促し、港湾競争力の強化が更なる投資を呼び込む。東アジアのメガポートがその効用を享受するに至ったのは、アジア新興国の経済成長に支えられ、世界的な貨物量増大と地勢的条件を優位に転じさせることが出来た結果であろう。世界から青森県を見ると、津軽海峡には現在、北米とアジアを結ぶ貨物航路の3割が集中している。また、地球温暖化により北極海航路の可能性が生まれており、今後20年、30年先を見据えたとき、北東アジア経済圏のポテンシャルの顕在化と相まって、欧州や北米とアジアとをつなぐ玄関口がまさに津軽海峡となり、ここにグローバル物流のダイナミズムが起こることが期待される。

北東アジアのグローバル物流拠点へ


東日本大震災からの創造的復興を目指し、そして人口減少や少子高齢化の進行などの課題を抱える本県が持続可能な社会を構築するため、新たな経済成長のシナリオとして策定したのが「青森県ロジスティクス戦略(平成26年1月)※」である。本戦略は、道路や港湾といったハード整備の充実を一義的な目標としているものではなく、時間、距離、コスト、情報の壁を乗り越え、需要と供給が円滑につながる環境づくりとして、ロジスティクス基盤(円滑な商流環境や最適な物流環境)を中長期的な視野の下に育成・整備し、国内・世界との経済交流の拡大を目指そうとするものである。
戦略では、将来像(2030年のめざす姿)として、北東アジアにおけるグローバル物流拠点化を掲げ、その視点として「1.アグリビジネスを支えるロジスティクス拠点(北日本の農林水産品等を国内外の市場に送り出す拠点)」、「2.国際的な物流動脈と直結したグローバル・ロジスティクス拠点(北日本における産業のグローバル化を支えるロジスティクス拠点)」、「3.食料・資源・エネルギーに関するロジスティクス拠点(バルク関連の安定的な確保と供給が可能な物流拠点や中継拠点)」を提示した。さらに、短期的な取り組みとして(平成26年度からの5年間)、本県最大の強みである農林水産品等(アグリ分野)をターゲットにしながら、本県の産品・製品をいかに競争力を保持して流通させるか、いかに貨物を集積できるか等の観点で、産業力強化と物流拠点化の両面から8つの具体的取り組みも提示した。幸い、本県は従前からりんごの輸出をはじめとする、品質や付加価値の高い農林水産品の生産や流通に多くの実績を有しており、これらをベースとしつつ、生産者や事業者との十分な意見交換を図りながら、さらなる知恵と工夫により、改めてロジスティクスにおける課題改善に取り組むところからはじめたい。

海洋国家日本への貢献

さて、戦略の将来像が意識するグローバル物流に話を戻す。津軽海峡の重要性は、将来にわたり確実に高まるであろう。青森県は、全方位海上物流を射程とすることが可能であり、とりわけ津軽海峡は北東アジアのゲートウェイとなり得る。翻って、それは、この地域の産業や物流における可能性を提示することに留まらず、将来北極海航路の啓開によるシーレーン等、安全保障上の対応も意味することになる。海洋国家たる日本の原点に立ち返ったとき、この国の将来の可能性は、これらグローバル物流のダイナミズムにおける「国づくり」にこそあるのではないかと思う。国や各種調査研究機関には、可能な限りオープンな研究や議論を通じて、津軽海峡の戦略的重要性について自らの立脚点を検証していただくことを提案したい。
私は、青森県の持続可能な成長を支える仕組みをつくり、次世代が安心して暮らせるよう、将来の青森県への責任を持たなければならない。勿論、それは日本全体の成長に貢献するものでありたいと強く思う。日本の地図を反転すると、背後には成長するアジアの巨大市場が広がっている。グローバル物流の大きな変化とともに、青森県が有する地政学上の重要性は更に高まっていく。この機会をチャンスと捉え、中長期的な展望を持ち、青森県、そして日本の新たな成長を目指し、このロジスティクス戦略の実現に向けて、しっかりと取り組んでいきたい。(了)

※ 青森県ロジスティクス戦略(平成26年1月15日策定) https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/soumu/seikatsusaiken/logistics.html

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