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オーシャンニューズレター

第329号(2014.04.20発行)

第329号(2014.04.20 発行)

フィリピン国際緊急援助活動における自衛隊の活動について

[KEYWORDS]統合任務部隊/日本規格の救援活動/洋上活動拠点
海上自衛隊第4護衛隊群司令◆佐藤壽紀

2013年11月に発生した台風30号で甚大な被害を受けたフィリピンにおいて、自衛隊は国際緊急援助活動としては過去最大規模となる人員を派遣して被災地支援を行った。被災地のニーズは時間の経過とともに変化するという東日本大震災時の経験を踏まえ、日本規格の高品質な救援活動を提供することを目標として部隊は各地で救援にあたり、島嶼部においては被災地の沖合の艦艇を活動拠点とした救援も有効な活動となった。

派遣に至る経緯

2013(平成25)年11月8日、猛烈な台風となった台風30号ハイヤン(フィリピン名ヨランダ)は、フィリピン諸島中部を東から西に横断し各地に甚大な被害をもたらした。気圧の低下によって上昇した海面を、強風が吹き寄せることにより高潮が発生し、沿岸部では、多くの建物、電柱、樹木がことごとくなぎ倒されて流される等、津波による被害に類似した打撃を受けた。フィリピン政府によると、被災者総数は約1,600万人、死者約6,000人を数える被害であった。
日本政府は、11月11日(月)の国際緊急援助・医療チームの派遣に続き、緊急援助物資の供与、緊急無償資金協力の実施と、次々に支援を打ち出した。 自衛隊としては、11月12日に医療チームを主体とした陸海空自衛隊員約50名からなる国際緊急援助隊を現地に派遣し、その後、15日には陸上自衛隊の輸送ヘリコプター、医療チームで構成される医療・航空援助隊、その部隊を分乗させた護衛艦「いせ」、輸送艦「おおすみ」に加え、補給艦「とわだ」で構成される海上派遣部隊と、航空自衛隊の輸送機等からなる空輸隊をもって「フィリピン国際緊急援助統合任務部隊」が編成され、合計約1,170名の自衛隊員がフィリピンでの救援活動に従事した。

統合任務部隊

1998(平成10)年のホンジュラスにおける国際緊急援助活動以降、自衛隊はこれまでに13回の国際緊急援助活動に従事してきたが、フィリピンに派遣された国際緊急援助統合任務部隊は、過去最大規模であり、海外での任務を目的とした初の統合任務部隊として編成された。
私は、派遣部隊の指揮官としてフィリピンへ向かう途上、「少しでも早く、日本規格の高品質な救援活動を提供する」ことを当面の目標として掲げるとともに、今回の作戦のコードネームを「オペレーション・サンカイ」と命名した。これは、東日本大震災後にわが国に対し救いの手を差し延べてくれ、日本との関係が深い「友達」の国フィリピンでの救援活動となることから、被災地の方々を「友達」として支えたいとの気持ちを込めて現地のワライ語で「友達」を意味する「SANGKAY」を使用するものとしたのであった。

日本規格の救援活動

■CH-47に乗り込む医療援助隊(いせ)

被災地は、フィリピン東部のサマール島南部からレイテ島、セブ島、パナイ島に分散していた。多くの港湾および空港が被害を受けたため、それぞれの都市・集落は孤立状態であった。統合任務部隊が編成される前に現地に入っていた約50名の隊員も、被災地への移動に苦慮しながらの医療活動を実施していた。
われわれが現地に到着した時は台風直撃から2週間が経過していたため、最も被害の大きかったレイテ島タクロバンにおいても急を要する救助活動は終結し、各国が設置した救護所における医療活動に加え、孤立している近隣島への救援物資の輸送活動が主に行われていた。市内各所に設けられた避難所にとりあえず身を寄せている被災者がいる一方、タクロバン空港には、島外への一時避難を望む被災者が列をなして輸送機への搭乗を待っている状況であった。また、各地から寄せられた救援物資も、交通網が寸断されているため、タクロバン空港内の集積所に滞留し、孤立した被災地への輸送を待っている状態にあった。
これらのことから、市内各所で避難生活を続ける被災者のために、医療チームは、一定の箇所に診療所を設けることなく、チームが自ら各所を巡回して医療活動を行うことにより、受診に赴けない被災者の健康状況改善を図ることとした。また、がれきの撤去が進まないまま、必ずしも衛生環境が良いとは言えない避難所を中心に、防疫活動と予防接種も併せて実施した。
物資の輸送に関しては、空自輸送機が、マニラを拠点として、主にセブ、タクロバンの間の救援物資の幹線輸送と、一時避難する被災者の輸送に従事し、離島等で孤立している被災地に対しては、レイテ湾内に所在する護衛艦「いせ」、輸送艦「おおすみ」から、陸自・海自ヘリコプターを派遣して、タクロバン空港に集積された物資を各被災地に輸送した。
このように、時間の経過とともに変化する被災地のニーズに応じ、東日本大震災時の経験を踏まえた日本規格の救援活動は、終結までの約1カ月間に、診療者数は延べ2,646名、ワクチン接種は、1万1,924名に上った。防疫した面積は約9万5,600平方メートル。また、空自輸送機と陸・海のヘリコプターにより、物資約630トン、被災者2,768名を輸送した。

洋上活動拠点

■揚陸地点に向かうLCAC

■陸自車両を揚陸するLCAC

島嶼部における大規模自然災害に対応した今回の活動では、派遣隊員は、一部の連絡要員を除いて、毎日、レイテ湾に所在する海自艦艇から被災地に入って救援活動を行い、終了後は戻るという、艦艇を洋上の活動拠点として任務にあたった。
陸自・海自ヘリコプターは、護衛艦「いせ」と輸送艦「おおすみ」を拠点として運用し、被災地で活動する医療チーム等の人員を輸送するとともに、物資輸送の任務にあたった。特に「おおすみ」は、艦内および甲板に車両、ヘリコプターを搭載する十分なスペースを有し、乗員の他約300名に上る隊員が起居する機能を有しており、気温30度を超える中、連日の救援活動に従事する隊員が十分な休養を取ることを可能とした。
エアークッション艇(LCAC)は、港湾施設が機能を失っている状況下において、多量の人員および車両を海岸から送り込むことができ、ヘリコプターの輸送力を超える車両や物資の輸送に効果を発揮した。また、補給艦「とわだ」による燃料、水、生糧品(生鮮食品や冷凍品)の補給は、洋上拠点となっている「いせ」「おおすみ」がレイテ湾で任務を長期間継続するために不可欠のものであった。
このように、島嶼部における大規模災害への対応では、被災地の沖合に所在する艦艇を拠点とした自己完結型の救援部隊が、その機動性、柔軟性および滞洋性を発揮して、複数の被災地にチームを投入して行う救援活動が有効であった。発災から約1カ月を経過した12月13日、緊急対応フェーズから復興フェーズに移行したことから、防衛大臣から終結命令が出され、派遣部隊は順次帰国した。台風被害の犠牲になられた方々のご冥福をお祈りするとともに、一日も早い被災地の復興を願ってやまない。(了)

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