Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第329号(2014.04.20発行)

第329号(2014.04.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆今年の桜前線は首都圏を足早に去り、目下、北関東を過ぎて東北地方を北上中である。本号が読者に届く頃は会津地方あたりを通過しているのではないだろうか。これから日本列島は急速に新緑に染まっていく。季節の移ろいがくっきりと現れる時候になった。「花散りし 庭の木の葉も 茂りあひて あまてる月の 影ぞまれなる」。これは平安時代中期に強い個性を持って和歌の改革を目指しながらも、孤立した曾禰好忠がその心境を移ろいゆく邸の様子になぞらえた歌のようであるが、これからは並木路や公園の緑陰が貴重な潤いをもたらしてくれる。
◆残念なことに最近の海の話題には暗いものが多い。マレーシア航空機のインド洋上での遭難と捜索活動の難航、沖ノ鳥島の港湾施設工事での痛ましい事故、そして南極海の調査捕鯨活動に関する国際司法裁判所の違法判決のニュースと続いた。私たちの世界には蓋然性の高いものもあるが、いつどのようなことが起きるのか分からないことも多い。想像力を豊かにして、ありうる状況を想定し、正確な情報を迅速に把握し、的確に判断して、対応する体制の準備を怠らないようにしなければならない。リスク管理とリーダーシップ、それをささえるロジスティックスの重要性である。
◆今号では、昨秋にフィリピン諸島中部を襲った台風30号の甚大な被害に対し、わが国が実施した国際緊急援助活動「オペレーション・サンカイ」について、派遣部隊指揮官の任務を遂行された佐藤壽紀氏に解説していただいた。千名を越える自衛隊員が海外救援活動に従事したのは過去最大規模だったということである。大規模災害においては、被災地に多くの救援物資と救助隊員を運ぶことができ、現場では自己完結型の洋上基地となる大型輸送艦はきわめて有効である。ロジスティックスの重要性を見事に実証したオペレーションだったといえるであろう。
◆二番目のオピニオンは三村申吾青森県知事による、まさにロジスティックスに関するものである。三方を海に囲まれた有利な地勢学的条件を農林水産品による産業力強化とグローバル物流の拠点化に生かしていく戦略は、北極海航路の啓開をにらむものであり、新たなダイナミズムを物流界にもたらす可能性が大きい。地政学的には東アジアと欧米の要に位置することにもなる。古来、産業形態の変化や洋上物流ルートの変化は通商都市に栄枯盛衰をもたらしてきた。時の変化を見据える戦略は極めて重要である。
◆今号の最後を飾るオピニオンは、隠岐世界ジオパーク推進協議会の中林 豊氏によるものである。昨年9月に世界ジオパークネットワークにわが国6番目の地域として加盟が認められた隠岐世界ジオパークの取り組みについて解説していただいた。ジオパークの条件には地質遺産を多数含むこと、公的機関と民間団体の協働により組織運営がなされること、ジオツーリズムなどで地域の持続可能な経済活動に貢献すること、地球科学や環境教育に貢献すること、地域の伝統と法に基づいて遺産を保全することがある。ジオパークは「大地の公園」と訳される。しかし、隠岐のケースは日本海に浮かぶ離島としての貴重な海洋生態系と国境の島としての大陸との豊かな交流史に彩られており、海洋保護区(MPA)の概念も含むものとして極めてユニークなのではないだろうか。(山形)

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