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オーシャンニューズレター

第327号(2014.03.20発行)

第327号(2014.03.20 発行)

西之島の拡大とわが国の海

[KEYWORDS]西之島/火山/排他的経済水域(EEZ)
海上保安庁海洋情報部技術・国際課長◆仙石 新
海上保安庁海洋情報部技術・国際課火山調査官◆伊藤弘志

2013年11月、西之島近傍で火山活動により新島が形成された。新島は溶岩の流出により拡大を続け、従来の西之島と接続した後、島の西方の排他的経済水域(EEZ)が広がる位置まで拡大している。
今後、西之島の火山活動が沈静化すれば、測量を行い海図を改訂することにより、わが国の海が広がることとなるだろう。

日本の海は火山島が支えている

わが国の排他的経済水域(EEZ)の面積は約405万平方kmあり、世界的に見ても十指に入る広さである。この広大な海には豊かな漁業資源があり、まだ開発されていない鉱物・エネルギー資源が眠っている。海洋国家であるわが国の潜在的な可能性は計り知れないものがある。しかし、この広大なEEZのかなりの部分は海域の火山島が支えていることをご存知であろうか? 伊豆~小笠原諸島や南西諸島など、わが国の島の多くは火山活動によって形成された火山島である(現在活動していない島も、過去に火山活動によって島が形成されたのである)。もし、これらの島々が存在していなかったとしたら、どうなるであろうか? EEZの基点となるこれらの島々が地図から消えてしまうと、日本のEEZは本州、北海道、四国、九州の周辺のみになってしまうであろう。そうなると、EEZの面積はおよそ160万平方kmと現在の4割以下に激減し、世界の十指どころか30番くらいまで順位を下げてしまうのだ。
わが国が広大なEEZを持てるのは、火山島の存在のおかげなのである。

日本周辺の海域火山

■図1:海上保安庁が監視・観測している火山島および海底火山(印)。黒線はEEZの大まかな外縁。

わが国は世界有数の火山国で、桜島や雲仙岳をはじめ100以上の活火山が今も活動している。その多くは陸域にあるのだが、海域にある活火山も数多い。右図はわが国の海域の活火山の分布を示したものである。活火山(図中の赤△印)がふたつの列をなしていることがお分かりになるものと思う。ひとつは伊豆半島東部から南に伸びる火山列であり、伊豆大島、三宅島、伊豆鳥島、西之島、硫黄島などの火山島をはじめ、数多くの海底火山を含んでいる。もうひとつは桜島から南西に向かって伸びる火山列であり、桜島、薩摩硫黄島、諏訪之瀬島など活発な火山が知られている。
伊豆大島の噴火(1986年)や三宅島の噴火(2000年)では、全島民が島外へ避難する事態となるなど大きな被害があったことは記憶に新しい。青ヶ島の南に位置する明神礁では、1952年に火山活動により島が形成されたが、後に大爆発を起こして島が消滅し、調査に向かった海上保安庁の測量船「第五海洋丸」が遭難し31名が殉職した。伊豆鳥島では、1902年に全島民125名が亡くなる大噴火が発生しており、その後も火山活動が継続している。硫黄島南方にある福徳岡ノ場では、1986年に新島が出現したが、その後、波の浸食により2カ月あまりで消滅している。南西諸島にある薩摩硫黄島では、1935年に火山活動により新島が誕生し、現在も存在している(昭和硫黄島)。このように、わが国周辺の海域では火山活動がきわめて活発であるため、住民や航行する船舶の安全確保は重要な課題である。

西之島の火山活動―新島の形成と本島との接続

■図2:平成25年11月21日の噴火の様子。激しいマグマ水蒸気爆発を起こしている。

■図3:平成26年1月20日の噴火の様子。奥側が従来の西之島部分。

2013年11月20日、西之島で噴煙を確認したとの海上自衛隊からの情報を受け、確認に向かっていた第三管区海上保安本部の航空機「うみわし2号」は、西之島の中心から南南東約500mの海上に新島が誕生していることを発見した。西之島の噴火活動は、1973~74年以来、約40年ぶりになる。
噴火活動が始まった当初は、マグマ水蒸気爆発と呼ばれる爆発的な噴火(マグマが水と直接接触して起こる爆発的噴火)であったが、すぐにマグマ噴火(水が直接関与しない噴火)へと噴火様式が変化し、ストロンボリ式噴火により、間歇的にマグマを吹き上げるとともに、山麓から溶岩が流出し始めた。溶岩は、東山麓および西山麓から流出し、特に西側の流出口からは大量の溶岩が流出し、現在まで活動を続けている。マグマ水蒸気爆発で形成された山体は非常に脆いため、波の浸食による消滅が危惧されていたが、溶岩流の流出以降に形成された新たな陸地は、固い溶岩によって覆われており、波による浸食にも強いものと考えられる。
今後、大規模な爆発的噴火などが起こらない限り、長期間にわたって新たな陸地が存続する可能性が高い。新島は順調に成長し、12月26日には西之島本島と接続したことが確認された。2014年1月20日には、新たな陸地の面積は従来の西之島を超え東京ドームの約10倍(2月11日現在)となり、島の西方の排他的経済水域(EEZ)が広がる位置まで島が拡大したことが確認された。島の拡大速度は噴火開始以降ほぼ一定に保たれ、噴煙、火山ガス、変色水の放出も続くなど、今のところ噴火の沈静化の兆しは見られていない。

西之島とわが国の海

今後、西之島の火山活動が沈静化し、安全が確認されれば、測量を行い海図や地図を改訂することとなる。わが国の領海やEEZは、わが国の海図に記載される低潮線(低潮時に海面が最も下がった時の水際線)からそれぞれ12海里、200海里となることが国連海洋法条約および国内法により定められている。今後、新たな陸地を海図に記載すれば、わが国の海は広がることとなるだろう。
しかしながら、上に述べたように、過去に火山噴火によって誕生した新島が後に消滅したこともあるため、引き続き活動の推移を見守る必要がある。
陸域で火山が噴火すると、周囲に大きな被害がおよび火山災害となるが、西之島の火山で被災する人はいない。西之島の火山活動が今後も継続し、わが国の領海とEEZがさらに拡がることを願っている。(了)

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