Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第327号(2014.03.20発行)

第327号(2014.03.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆冬らしい冬がようやく去り、沈丁花の香りがどこからともなく漂ってくる。桜の季節ももうすぐである。地球温暖化が進む中で、近頃はなぜ寒い冬が多いのかという疑問をよく耳にする。意外にも、地上気温の年平均値は1998年以来ほとんど上昇していない。これは「温暖化の中断(ハイエイタス)」として大きな話題になっている。その原因が、国際太平洋研究センター(https://www.spf.org//jp/news/101-150/134_2.htmlおよびhttps://www.spf.org//jp/news/301-350/317_1.html)に最近まで在籍していた謝 尚平博士と小坂 優博士らの研究から明らかになってきた。
◆十年程度の期間で平均してみると、中央部熱帯太平洋の広い範囲に冷たい海水が露出し、大気を冷やしているために温暖化が止まっているように見えるのである。見方を変えれば大気が熱帯の海を暖めていることになる。1976年から1997年までは逆に中央部熱帯太平洋の広い範囲に暖かい海水が露出し、エルニーニョに近い状態にあって大気を暖めていたために、人為起源の温暖化と重なり気温が急速に上昇した。この急激な温暖化は海洋生態系にも大きな影響を及ぼし、1976年は気候のレジームシフトが起きた年として広く知られている。
◆こうした数十年スケールの太平洋振動の振り子はそろそろ反対側に振れそうである。地球シミュレータを用いた季節予測では今年の夏あたりからエルニーニョに近い現象が発生するようだ(http://www.jamstec.go.jp/frcgc/research/d1/iod/seasonal/outlook.html)。人為的な温暖化に加えて熱帯の海に蓄積された熱が放出されるならば、新たな気候のレジームシフトが起きるのは必定である。今、多くの気候研究者の関心はこの問題に集中している。
◆今号では日本の南方海上のホットな話題、西之島の拡大について仙石 新、伊藤弘志の両氏に取り上げていただいた。公海の一部が西之島の拡大によりEEZに繰りこまれる可能性が高くなっている。新しい国土の誕生とともに見守っていきたい。伊藤一教氏には昨年秋に開通したボスポラス海峡トンネルへのわが国の科学技術の貢献について解説していただいた。沈埋函(ちんまいかん)という箱型構造物を海底に沈め、次々に接合していく工法があることに驚かれた読者も多いに違いない。これには時々刻々変わる気象や海況を正確に把握して、海上・海中作業を進める必要があり、潮流予測システムが重要な役割を果たしたということである。これは土木工学と環境科学の融合による、見事な学際的成果と言えるのではないだろうか。
◆今月は東日本大震災からちょうど三年になる。生産基盤や生活基盤の復興は確実に進展しているが、沿岸漁業とも密接に関係する海の生態系の様子はなかなか把握できない。最後のオピニオンは三陸沖アマモ場の復活に関するものである。小松輝久氏は長期にわたる丹念な潜水調査により、千年スケールの大津波にもかかわらずアマモ類が逞しく蘇りつつある様子を確認した。藻場の形成には河川による砂の供給が重要であり、防潮堤などの建設には自然の循環系への配慮が必要であるという意見は貴重である。学識者を含むステークホールダーが緊密に連携して、よりよい形で復興を進めていただきたい。(山形)

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