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第326号(2014.03.05発行)

第326号(2014.03.05 発行)

市民組織が復興に向けた議論を支える~宮城県塩竈市における市民の取り組み~

[KEYWORDS]防災護岸/環境・利用/市民からの提言
塩竈市港奥部ウォーターフロント活用市民会議事務局長◆鈴木美範

平成23年8月に、宮城県により『仙台塩釜港復旧・復興方針』が出され、北浜緑地護岸の整備を含む復興のシンボルとなる水辺空間の検討が始まっている。
市民組織の議論を復興のまちづくりに活かしている塩竈市の取り組みについて紹介したい。

震災を乗り越えて、動き出した海辺のまちづくり

■塩竈市の位置図

■図1:北浜緑地護岸の当初計画(イメージ)2013.2
検討段階の案として護岸より海側の部分がコンクリートなどで被覆される人工的な構造が宮城県より提案された。(出典:『北浜地区まちづくりニュース』H25.2.19、塩竈市発行)

塩竈市は、宮城県のほぼ中央、大小260余りの島々が浮かぶ松島湾を望む位置にあり、背後には松島丘陵が控えている。平地のほとんどが埋立地であり、市街地のすぐ近くまで入江が入り組んでいる。入江は港町地区と北浜地区に挟まれており、南側の港町地区は、松島遊覧船の旅客ターミナル施設(マリンゲート塩釜)を中心として観光客で賑わい、北側の北浜地区は、造船施設などが立地し、複雑な海岸線を持っていた地区であった。港湾整備を行う港湾管理者である宮城県がこの北浜地区において、防災と市民に身近な水辺を実現する事業として、面積約3 ヘクタール、延長700 mの緑地護岸整備「北浜緑地護岸整備事業」を平成14年度から進め、平成27年度の完成が待たれていたところである。
塩竈市では、こうした県による事業実施に対し、地元意見を反映させた「みなとまちづくり」を推進するため、「みなとまちづくり検討会」「北浜緑地護岸整備促進同盟会」などを組織し、市民有志の参画を促しながら様々な提言、要望を行ってきた。近年は水族館の誘致構想などもあって、海辺空間を活かした総合的なまちづくりを積極的に進めようと、市民が中心となって既存組織を束ね、「塩竈市港奥部ウォーターフロント活用市民会議(以下、市民会議と称す)」を平成23年2月に立ち上げるに至った。メンバーには商工会議所、港湾利用企業、NPO団体、地元青年団体、町内会等々多様な顔ぶれが揃い、市民会議は様々な角度から計画検討を行うことのできる機動的な組織となった。
平成23年3月に発災した東日本大震災により、当該北浜地区も大きな被害を受け、多くの市民の生活基盤が失われるとともに、海岸線に立地していた事業所も壊滅状態となった。その後、平成23年8月には、宮城県により産業・物流復興プラン『仙台塩釜港復旧・復興方針』が出され、北浜緑地護岸の整備を含む復興のシンボルとなる水辺空間の検討が始まった。市民会議のメンバーも被災を乗り越え、市民フォーラムなどの開催を通して市民の視点からの検討を重ね、同年10月に、県から示された北浜緑地の整備に対する要望をまとめ、海辺のまちづくりについての提言として市長へ提出し、11月には市を経由して県へ具体的な提案を行った。その内容を以下に示す。

市民会議からの提言の内容

防災のための配慮
・護岸は親水性を期待できる多段式構造を兼ね備えた直立護岸とし、万全な地盤沈下対策と水辺からの避難動線に配慮すること。
環境・利用などへの配慮
・海側はコンクリートなどで被覆される構造ではなく、多様な生物生息に適した多孔質パネルや多段式構造とすること。
・直線的な形状より、海岸線が入り組んだ自然を生かした形状とすること。
・子どもたちがより安全に水辺と親しめるよう、前面に階段状の干潟を設けること。
協議・報告の場の継続
・事業の健全な進捗を推進するため随時意見交換に応えること。
これら提言の一つの目玉は、県から示されていた北浜緑地護岸計画の親水性を高める案に対する対案の提示であった。親水性の確保のため、もともと海から緩傾斜で設計された護岸であったが、東日本大震災の津波に見舞われた隣接地区の住民からの波の遡上、越流に対する危惧の声、震災後の堤防計画高の見直し等により護岸の高さが3.3mまで上げられることとなった。その結果、護岸の傾斜がきつくなるとともに、その傾斜を保つためにコンクリートブロックで覆われた護岸の設計がなされた。

市民組織の議論を復興のまちづくりへ

■図2:市民フォーラムで共有されたイメージ図
市民からの提言に対し、県は真摯に技術的な観点や整備範囲など検討を加え、新たに親水エリアを設けるなど、可能な範囲で計画の見直しを行った。

新たな護岸設計を見た市民から、海水に濡れた護岸が滑りやすくなり、水辺に親しむ施設としての機能の低下を懸念する意見が新たに出され、「安全で、親しみやすい海辺」を市民会議として具体的に考えることが必要との認識に立ち、他市の事例、施工実績なども持ち寄り議論を重ねた。そのまとめとして市民フォーラムを開催し、対案の図をみんなで見ながら、市民会議としての意見を図面に書き込んでいくワークショップ形式で意見の集約を図ったものである。その結果として、単に環境・利用への配慮というだけでなく、大前提となる防災のための配慮、さらには、将来的な検討への要望も含めた総合的な意見集約がなされた。
こうした技術的内容を含む検討を短期間に行い、市民の意見を集約することができたのは、既存の市民組織としての市民会議の存在が大きかったと考えている。そのメンバーの多様性が、様々な角度からの検討を可能にし、常日頃の意思疎通の積み重ねが、迅速な意見集約を可能にしたのではないかと考えている。
このようにして作られた市民からの提言に対し、県は真摯に技術的な観点や整備範囲など検討を加え、新たに親水エリアを設けるなど、可能な範囲で計画の見直しを行った。今後、市民会議としては、実施設計の過程で緑地部分の整備計画などの意見交換を進めるとともに、親水部分が自然教育、環境教育のフィールドとして安全に利用できる整備がなされるかを注視しながら、管理面でのルールづくり、市や市民グループとの連携の模索に寄与していく必要があると考えている。(了)

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