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第326号(2014.03.05発行)

第326号(2014.03.05 発行)

福島県の震災復興~再生可能エネルギー関連産業の集積に向けた取り組み~

[KEYWORDS]東日本大震災被害/再生可能エネルギー推進ビジョン/浮体式洋上風力発電
福島県商工労働部再生可能エネルギー産業推進監兼次長◆吉田 孝

東日本大震災から3年が過ぎようとしている現在の福島県の復興への取り組み状況と、これまで取り組んできた中から、特に再生可能エネルギーの推進による関連産業の集積に向けた事業を紹介する。
浮体式洋上風力発電の実証研究事業はそのシンボリックな存在である。

震災被害と復興への取り組み

もうすぐ東日本大震災から3年が過ぎようとしている。福島県は岩手県や宮城県と同様に、震災で地震や津波により大きな被害を受けた。災害関連死を含む死者は3,461人、行方不明者は5人。住宅被害は、全壊21,225棟、半壊73,295棟(平成26年2月4日現在)。地震・津波による被害額は公共土木施設・農林水産関連・商工業関連を合わせて9,512億円となっている(平成23年4月27日現在)。
また、福島県は他の被災県と大きく異なる状況がある。東京電力福島第一原子力発電所事故の影響が大きな被害をもたらしている点である。原発事故の影響は、県内全域のあらゆる分野におよんでおり、今でも被害の全体像の把握が困難な状況にある。避難等に伴う県民の精神的な負担も大きい。自宅を離れている県民は、県内避難者88,884人、県外避難者48,364人、避難先不明者58人を合わせて137,306人となっている(平成26年1月現在)。
震災は県内の産業や雇用に大きな影響を与えており、震災前にあった10万事業所は約9万事業所に減り、有業者の3.1%にあたる約29,000人が離職した。それは現在も回復していない。
このような中、福島県は、復興へ向けた大きな方向性を示す『福島県復興ビジョン』(平成23年8月11日)と、具体的な復興のための施策「福島県復興計画」(平成24年12月28日)を策定し、重点プロジェクトをスタートさせた。
これまでの県民の一丸となった取り組みにより、最近では、米を始めとした農産物の生産・出荷が相次いで再開し、商工業の再生・再建、工場等の新増設、観光地での入込客数の回復傾向、県営復興公営住宅の着工など、復興の動きが形になって現れてきている。
一方で、対策が遅れている面、不十分な点など、まだまだ課題が残されている。農林水産業の再生では、農林水産業特区を活用した関連産業の集積や雇用の創出の他、試験操業の海域や対象魚種の拡大、検査体制の強化と適切な検査の実施による本県産農林水産物の信頼確保に努めていく。また、双葉郡を始めとする避難地域の復興を最大の課題として、避難者の帰還に向けた対策と生活再建・安定のための対策を進めていくこととしている。
震災から3年の節目となる今年を「新生ふくしま胎動の年」と位置付け、新しい福島を形作ってさらに前進していく予定である。

再生可能エネルギー導入促進に向けて

■再生可能エネルギー産業フェア2013(REIFふくしま2013)
開催:2013,11,6~7/会場:ビッグパレットふくしま

前述した重点プロジェクトの中には、「再生可能エネルギー推進プロジェクト」が盛り込まれ、「再生可能エネルギーが飛躍的に推進され、原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会へ向けた取り組みが進んでいる」姿を目指している。
さらに『再生可能エネルギー推進ビジョン』(平成24年3月改訂)の中で、再生可能エネルギーの導入目標を県内で必要なエネルギーに占める割合について、2009年度実績の約20%から、2020年までに約40%、2030年までに約60%、2040年頃を目途に100%以上にするという意欲的なものとしている。
福島県の再生可能エネルギー関連産業の集積に向けた取り組みとしては、「普及・啓発、人材育成」「ネットワークの形成」「研究開発・技術支援」「実証試験」「取引拡大」「情報発信」の6つのステージがある。それらを産学官連携のもと一体的に推進し、県内外の企業・研究機関の参入を促し、関連分野の最先端の研究開発拠点に成長させることによる一大集積地形成を目指している。
具体的には再生可能エネルギー関連産業推進研究会(平成25年末で約480団体)の設立、(独)産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所の整備、地域イノベーション戦略支援プログラムの実施、再生可能エネルギー次世代技術開発の実施、浮体式洋上ウィンドファーム実証研究の支援、販路拡大支援事業の実施、再生可能エネルギー産業フェア(REIFふくしま)の開催などが主な取り組みである。

浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業

■2MWダウンウィンド型浮体式洋上風力発電設備
(写真:福島洋上風力コンソーシアム提供)

この事業は、平成23年度より経済産業省からの委託事業として、丸紅株式会社をプロジェクトインテグレーター、東京大学をテクニカルアドバイザーとして、国内1大学10企業で構成されるコンソーシアムが実施しているものである。
地形的に遠浅の海がある欧州と異なり、近海の多くを深い海に囲まれた海洋国家の日本において、着床式の次にくる新たな風力発電として研究されたのが、浮体式の海に浮かぶ風力発電である。陸上よりも風が安定して強く吹く洋上において、陸上の風車よりもさらに大型にできるメリットを活かした高効率の洋上風力発電を実現するものとして国内外から期待されている。
実証研究は第1期(2011~2013年)と第2期(2014~2015年)に分けて発電設備を設置する計画で、今年度は、2MWダウンウィンド型浮体式洋上風力発電設備「ふくしま未来」1基と25MVA浮体式洋上サブステーション「ふくしま絆」および海底ケーブル等を設置し、平成25年11月11日に運転を開始した。12月1日から東北電力へ売電を開始しており、12月1カ月間の設備利用率は43.6%となっている。一般的に陸上風車で妥当とされている利用率は20%であり、現状ではかなり良好な結果を得ている。第2期には、全高約200mとなる7MW浮体式洋上風力発電設備2基を設置する計画である。
この事業では、浮体コンセプト、観測と予測、高機能材料等の様々な技術課題に挑戦するとともに、将来大規模な洋上風力発電を実現するために欠かせない漁業との共存、航行安全性、環境影響評価、国民との科学・技術対話等の社会的合意の確立も行う。この実証研究事業の実施を契機として、福島県で再生可能エネルギーを中心とした新たな産業の集積や雇用の創出を行い、風力発電産業の一大集積地となることを目指す。これが福島復興につながることはもとより、この当該発電のビジネスモデルの確立やノウハウの蓄積が、さらに海外への展開にもつながることを期待したい。(了)

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