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オーシャンニューズレター

第326号(2014.03.05発行)

第326号(2014.03.05 発行)

三陸復興「岩手モデル」の実証フィールドを目指して

[KEYWORDS]震災復興/海洋再生可能エネルギー/漁業協調型
岩手県商工労働観光部科学・ものづくり振興課総括課長◆石川義晃

岩手県の海洋再生可能エネルギーに関する取り組みについては、本ニューズレターにたびたび取り上げていただいているが、本稿では、国が公募している「実証フィールド」誘致に向けた取り組みを中心に紹介したい。

大震災からの復興と海洋再生可能エネルギーの取り組み

■図1:国際交流拠点形成プロジェクトの概要

岩手県では、平成23年8月に策定した岩手県東日本大震災津波復興計画において、世界に誇る新しい三陸地域の創造を目指し、「国際研究交流拠点形成プロジェクト」を掲げ、「三陸沿岸をフィールドとした海洋再生可能エネルギーの研究」を推進することとしています(図1参照)。
本プロジェクトの実現に向けて、国が公募している「海洋再生可能エネルギー実証フィールド」を誘致するため、平成 24 年度、「三陸・復興海洋ネルギー導入調査事業」により、海洋エネルギーの実測調査や海域利用における社会的制約等の調査を行っています。
平成25年度には、学識経験者や漁業団体の代表等による「三陸復興・海洋エネルギー実証フィールド検討委員会」を設置のうえ、会議を4回開催し、実証フィールド導入に向けた諸課題について検討・協議等を重ね、国への応募に向けて提案書を取りまとめました。

釜石沖における実証フィールドの提案概要

■図2:釜石沖マップ

本県の提案する実証フィールドは、浮体式洋上風力と波力を想定しています。
候補海域は釜石沖とし、国の示した要件を満たす「沖合サイト」、さらに、独自提案として、波力発電の試運転や小規模試験等を想定した「湾口サイト」、発電デバイスの組立・動作確認・保守管理などが可能な「湾内サイト」を提案しています(図2参照)。
釜石沖における実証フィールドは、三陸沿岸に特徴的な海岸地形や臨海部に集積した産業群などを最大限生かし、発電デバイス等の組立・実証・保守などの一連の作業を半径5kmのエリア内で実施可能であり、コンパクトで利便性に優れていることが特徴です。
釜石市の臨海部には、造船業や海洋土木など、実証フィールドの建設および運営に関連のある産業をはじめ、研究機関や産業支援機関等が集積し、発電デバイスの組立等のスペースも確保可能で、十分なバックアップ基地機能を有しています。特に、湾口防波堤内の海域は、静穏で大水深(約50m)であり、発電装置の地先海面での組立・動作確認・保守管理のほか、必要な補修作業等に最適であると考えています。

漁業協調型の複合的な実証フィールドを目指して

海域の利用には漁業者との調整が必要ですが、本県提案の実証フィールドの候補海域近傍では、共同漁業権の区域外に位置し、周年で固定式刺し網漁業やかご漁業、季節によってイサダ船びき網漁業やイカ釣漁業などの漁船漁業が営まれています。
当該海域で操業している漁業者や関係する漁業団体に対しては、実証フィールドの提案内容を説明のうえ協議を重ね、当初は反対する声も聞かれましたが、幸いにも各団体から了解いただいたところです。
その取り組みの一環として、福島県沖の浮体式洋上ウィンドファーム実証研究事業に参画している漁業者をお招きし、地元関係者との意見交換会を行っています。福島県の漁業者からは、「漁業の後継者不足が懸念される状況にあって、子孫のために将来を見据えた取り組みが必要との考えから行っている」などの経緯の紹介がありました。また、「単に反対ではなくて、前向きに新しいことに取り組んでいって欲しい。特に若い漁業者が積極的に取り組めるようにすることが大事である」といったアドバイスもいただいたところです。
こうした取り組みを踏まえ、釜石沖における実証フィールドにおいては、発電装置の実証試験はもちろんのこと、漁場の環境影響調査や漁業協調モデルの実証なども併せて行う、漁業協調型の複合的な実証フィールドを目指すことにしています。

実証フィールド管理運営体制と漁業協調の取り組み

■図3:実証フィールド管理運営体制

実証フィールドの管理運営を行うためには、施設・設備の管理・メンテナンス、ユーザー企業等へのデータ提供等とともに、地元関係者との情報共有や不測の事態等への対応等に関する協議・調整がきわめて重要であると考えられます。このため、釜石沖における実証フィールドでは、施設・設備などの管理業務を担う組織に加え、漁業者をはじめ、行政、関係団体や専門家等で構成する調整組織を設け、これらが緊密に連携しながら取り組むこととしています(図3参照)。
また、漁業者、大学や試験研究機関等が連携・協働のうえ、実証フィールド海域周辺の海況情報の提供、魚群探知機やソナー設置による魚道等の調査、集魚効果等の調査および新漁法の導入試験など、漁業協調に関する取り組みを計画しています。

終わりに

岩手県が生んだ詩人・宮沢賢治が約90年前に残した詩『生徒諸君に寄せる』の一節をご紹介します。「潮や風・・・/あらゆる自然の力を用ひ尽くして/諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ/ああ諸君はいま/この颯爽たる諸君の未来圏から吹いて来る/透明な風を感じないか」
賢治は、今日、海洋再生可能エネルギーの導入に取り組んでいる私たちの姿を予言し、励ましているように思います。今後の岩手県の取り組みに対し、関係各位の御支援、御協力をよろしくお願いいたします。(了)

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