Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第326号(2014.03.05発行)

第326号(2014.03.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆桃栗3年柿8年ということわざがある。何事も成就するにはそれ相応の時間がかかることを指す。東日本大震災からこの3月11日で3年になる。2014年ソチ冬季オリンピックで仙台出身の羽生結弦さんがフィギュアスケート男子シングルで見事、金メダルを獲得した。羽生さんは災害時の絶望から不屈の精神で立ち直った。ソチでみせた笑顔は仙台の人びとのみならず日本中に感動をあたえた。被災地の方々に頑張る気を起させるニュースであった。
◆では、被災地のいまはどうなっているのか。本号では3年目をむかえた福島、岩手そして宮城からのレポートを紹介した。3つの県ではこれまでさまざまな取り組みがなされてきた。注目すべき点は平成23(2011)年8月という時点のもつ意味である。福島県では「福島県復興ビジョン」が、岩手県では「岩手県東日本大震災津波復興計画」が、宮城県では「仙台塩釜港復旧・復興方針」が策定された。これをスタートポイントとして、それぞれの復興計画に基づいた独自の取り組みがなされてきた。◆福島県は地震・津波による被災にくわえて、東京電力福島第一原子力発電所の事故による大きな打撃をうけた。原発事故をふまえ、県の復興計画も原子力に依存しない、再生可能エネルギー関連産業に大きくシフトしている。福島県商工労働部の吉田 孝氏によると、浮体式洋上ウィンドファームの開発事業に取り組み、すでに昨年暮れから風力発電によるエネルギーを東北電力に売電している。陸上における風力発電は全国各地に展開しているが、洋上の風力発電はたいへん効率のよいことが確かめられており、福島の成果は全国に拡大することが大きく期待される。
◆岩手県でも、三陸沿岸をターゲットとして海洋エネルギー導入のための事業が展開している。釜石湾を調査地として、釜石湾外における浮体式洋上ウィンドファームの導入を画策している。大切と思うのは福島県における先行事例を積極的に導入していることと、海面に浮体式の風力発電装置を設置することで発生すると思われる漁業との相克についての対応である。岩手県商工労働観光部の石川義晃氏によると、県は沿岸域を活動の場とする漁業者との協調関係を提起し、協議を重ねてきたという。日本の海洋政策においても沿岸域の総合的な管理の必要が謳われており、岩手県の取り組みは復興の過程で実証的に日本の政策を検証することとなり、注目度がたいへん高い。
◆宮城県でも塩竈市の沿岸域復興のシンボルとなる水辺空間を創出する取り組みが市民グループの強いバックアップにより推進されてきた。塩竈市湾奥部ウォーターフロント活用市民会議の鈴木美範事務局長は、防災、環境配慮、情報の交流を柱とする具体案を市、そして県へとあげることに成功した。ここでも、防潮堤や盛土による防災の思想とは異なり、地域の住民が主体的に復興に取り組む精神が生かされており、他の市町村における復興の取り組みにたいへん大きな刺激となるものと期待される。◆あらためて、海に面と向かった東北の取り組みに心から声援したいすがすがしい思いになった。(秋道)

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