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第313号(2013.08.20発行)

第313号(2013.08.20 発行)

水産高校ができること~海洋教育の推進にあたって~

[KEYWORDS]水産高校/海洋教育/海洋基本法
文部科学省初等中等教育局児童生徒課産業教育振興室教科調査官◆瀧田雅樹

水産高校の教育は「海・水産物・船」にくわえて「資源管理」「食」「環境」を素材としており、「海洋を利用する」「海洋を守る」「海洋を知る」という、海洋基本法キーワードと一致する多くの部分についても学習している。
学ぶ場としてだけではなく、その専門性を活かして、その地域などにおける海洋教育の推進に、水産高校が大いに貢献することも可能である。

はじめに

今年(平成25年)度より、高等学校においては新しい学習指導要領(以下、新学習指導要領)が本格実施されている。この新学習指導要領は2009(平成21)年3月に告示されたものであり、教科「水産」を学ぶ全国の水産高校にとっては、海洋基本法ができて最初の改訂ということになる。
また、ご承知の通り、今年4月に2期目の海洋基本計画が閣議決定された。今回、本誌への投稿の機会を頂戴したので、現在、全国36都道府県に46校※1(全国水産高等学校長協会加盟校)の水産・海洋を学ぶ高等学校(以下、水産高校)の学習内容や、海洋基本法及び基本計画下での、水産高校の役割について触れてみたい。

水産高校とは、どんな学校なのか

水産高校では、水産・海洋について学ぶ、すなわち、水産教育が行われている。明治期より行われている水産教育、その成り立ちは戦前の「主として、地域水産業の発展に貢献する中堅技術者の育成」を役割として、『漁業・水産製造・水産養殖』の3つの分野についての学習が行われてきた。戦後は、「遠洋漁業の中堅技術者の育成」の必要性から『機関・無線通信』に関する分野が加わり、現在の水産高校の原型が生まれた。その後、都市部への人口の流入、少子化、産業形態の変化などにより、1999(平成11)年の学習指導要領の改訂に伴い、海を広く捉えるべく、教科目標の中に、従来の「水産」に、「海洋」ということばが併記されるようになった。「海・水産物・船」を素材に、学習する学校である。
現在、水産高校の生徒数は全国で約1万人であり、これは全高校生の0.3%にあたる。また、一口に水産高校といっても、それぞれの学校(学科(分野)や地域)によって、学習する内容(カリキュラム)に違いがあり、当然、卒業後の進路先の傾向もさまざまである。なお、一部に商船学校の流れを汲んでいる水産高校もある。

新学習指導要領のもと、何を学ぶのか

今年度から実施される新学習指導要領では、「水産や海洋の各分野における基礎的・基本的な知識と技術を習得させ、水産業および海洋関連産業の意義や役割を理解させるとともに、水産や海洋に関する諸課題を主体的、合理的に、かつ倫理観をもって解決し、持続的かつ安定的な水産業および海洋関連産業と社会の発展を図る創造的な能力と実践的な態度を育てる」ことを教科の目標としている。従来の学習素材に、新たに「資源管理」「食」「環境」という3つのキーワードも加えている。 
参考として、新学習指導要領に記載されている、水産高校で学ぶ主な専門科目について示す(表1)。
その他、地域、学校および生徒の実態、学科の特色等に応じ、各学校独自の学校設定科目を設けることもできる。

海洋基本法および海洋基本計画下での水産教育の役割について

前記の通り、水産高校の教育は「海・水産物・船」および「資源管理」「食」「環境」を素材としている。海洋基本法で相当する部分を表2にまとめた。
このように、水産高校では、(主に水産業において)海洋(資源を含む)の開発や利用という面で「海洋を利用する」、海洋環境の保全という面での「海洋を守る」、専門科目を学習することで「海洋を知る」という、海洋基本法キーワードと一致する多くの部分について学習している。

水産高校が担える海洋教育について

海洋基本法の第28条については、水産高校自体が外部に発信できる点でもある。海洋教育を行う上で必要な人、モノについては、水産高校には揃っていると思われる。人については、先生方および生徒である。また、モノについては、専門科目で扱う各種施設・設備である。
水産高校では、実践的な学習活動や就業体験の重要性から外部講師等の招聘を行っているが、一方的な協力を受けるだけでなく、学校の教育力等の還元という、相互の協力関係を築くことの必要性について、新学習指導要領の解説でも以下のように触れている。
「地域や産業界等との協力関係を確立するためには、学校の教育力を地域に還元する努力も重要であり、学校の施設・設備等を地域に開放したり、生徒が自らの学習の成果によって身に付けた専門性を生かした活動を行うことなどが考えられる」
いうまでもなく、学校は生徒のための教育活動を行う場であり、その施設・設備についても、教育活動に必要なモノとして、安全性確保のもと管理がなされている。したがって、それらを阻害する恐れのある場合は、当然別の話しとなるが、学校の教育活動の一環として位置づけることができれば、海洋教育の推進に、水産高校が大いに貢献することが可能であると考える。
すでに、小学校への教材提供や教員・生徒による出前授業、環境教育の連携、中高連携事業をはじめ、「海の日」のイベントとして、地域の方々への実習船※2の体験乗船会やマリンスポーツ、水産業の体験会などを開催している学校もある。
海洋教育の推進をお考えの、小・中学校の先生方、関係団体の方は、一度地元の水産高校をお尋ねになってはいかがでしょうか。一緒に、活動ができることが見つかるかもしれませんよ。(了)

※1 学校基本調査における水産に関する学科を有する学校数は33道府県42校。
※2 水産高校の実習船は漁船であり、一般の方を乗せるためには、臨時航行検査を受けることが必要である(年間30日まで)。

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