Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第313号(2013.08.20発行)

第313号(2013.08.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆もう20年近く前になるが、英国ロンドンのケンジントンにあるロンドン自然史博物館を訪れた。キーパーの案内で標本室を見学することができた。そこでうす暗い部屋の陳列棚にある液浸標本の古びたラベルを見て、いたく感動した。魚の標本は英国のチャレンジャー号が1872~1876年におこなった探検航海のさいに採集されたものであった。19世紀当時から今日にいたるまで、深海を探る調査研究が飛躍的に発展してきたことはいうまでもない。
◆現在、東京の国立科学博物館で「深海」をテーマとする特別展が開催中である(10月6日まで)。本誌で同館の窪寺恒己氏はその特別展についてわかりやすく紹介されている。深海は人類にとってのフロンティアである。秋までまだ時間がある。是非観覧していただければとおもう。しかし、会期が終われば展示は姿を消す。もったいない話である。海洋教育の普及が叫ばれるなか、常設展示の場を設けて一般に公開する試みがあってもよいのではないか。
◆昨今、注目を集めつつある海洋教育について、文部科学省の瀧田雅樹氏は、全国にある46の水産高校が未来の海洋技術・産業・研究をになう人材育成のかなめであると位置づけられている。しかも、水産高校における取り組みは海洋を「利用する」「守る」「知る」の3つの柱に集約され、海洋基本法に謳われた内容に合致するということだ。大枠では異存ないが、各地の水産高校が隣接する海の自然・文化的な条件はおなじではない。水産高校の立地する地域ごとの独自性があり、上述した3つの取り組みも多様化しても不思議ではない。授業における先生方の工夫に期待したいものだ。それとともに、水産高校間の情報交換や交流など、地域を超えた活動も面白いと思うがいかがだろうか。
◆わが国の海洋基本法の第2期が今年の4月に始まった。おなじく中国でも第12次5カ年計画が2011年に策定された。キヤノングローバル戦略研究所の段烽軍氏が指摘されているように、中国はこの時点で海洋元年に入った。とすれば、尖閣列島のみならず東シナ海、南シナ海など、アジアの海域をめぐる海洋政策上の日中間の駆け引きはますます熾烈化することが予想される。日本では衆・参両議院のネジレが解消したものの、政府が海洋をめぐる日中関係で暴走することのないような良識を望みたい。
◆今年の「海の日」から早1カ月が過ぎ、夏休みも残り少ない。海を知り、海と親しむ機会を惜しみなく楽しみたいものだ。(秋道)

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