Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第312号(2013.08.05発行)

第312号(2013.08.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆空梅雨とダムの取水制限のニュースがあれば、一方で山形県は集中豪雨に襲われた。猛暑による酷暑害のニュースも飛び交う。熱帯ではラニーニャ現象とインド洋の負のダイポールモード現象が同時に発生していているため、小笠原高気圧が例年になく強い。その一方で寒気も入りやすい状況にある。異常気象の主因はこうした自然界の気候変動にあるが、背景には地球気候の構成要素の変化がじわじわと進んでいることがある。ハワイのマウナロア観測所では大気中の二酸化炭素濃度が、初めて400ppmを超えた。地球シミュレータによる予測では熱帯海洋の状況は晩秋ごろまで続く。今後も警戒を怠らないようにしたい。
◆雲南省麗江市で行われた海洋会議に招かれ、中国の海洋研究の急展開を目の当たりにしてきた。米国帰りの若手によるリーダーシップに加えて、米国の海洋学の中核を担うまでになった文革後世代の兼務による指導で、世界の研究中心にドラゴンのように躍り出てきた。30年ほど前、北京の大気科学研究所に招かれ、1カ月にわたりセミナーを行ったが、当時とは昔日の感がある。国際性豊かな若手、潤沢な研究資金、わが国の海洋機関を凌駕する計算機環境、これらは昨年視察してきたインドでも同様であった。
◆私たちを取り巻く現実は厳しいが、素晴らしい第2期海洋基本計画が閣議決定された。湯原哲夫氏は、海洋資源、再生エネルギー開発に向けて産学官が緊密に連携して、海洋産業の振興と人材育成を一気に加速すべきであると主張する。黒崎 明氏は三陸沿岸地域の東日本大震災からの復興と海洋再生エネルギーの開発を連携する計画を展開する。西欧先進国の叡智に学び、地域の地相、産業、文化を総合的にとらえた魅力ある海洋エネルギー研究都市構想が実現することを願う。風呂田利夫氏は大震災に伴う漂流物の海洋生物分布への影響に関する日米共同調査がもたらした文化面の相互理解の素晴らしさを紹介している。心を豊かにする未来の種子はアゲツ(瑪瑙)の小片のようにどこかで光っている。(山形)

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