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オーシャンニューズレター

第30号(2001.11.05発行)

第30号(2001.11.05 発行)

韓国の海洋牧場の推進と問題点

韓国海洋研究院(KORDI)長木分院 分院長◆金 鐘万

排他的経済水域の隣接国との境界画定にともない沿近海漁業を全面再編する重要な政策手段として、韓国では海洋牧場の事業計画が推進されている。近海水域については企業的な資源管理型の漁業を実現させて国際的競争力を整えるべきであり、沿岸については完全な海洋生態系の管理を通じてつくる漁業を実現させるべきである。

1.基本の構想

a. 目標

海洋牧場事業は、排他的経済水域(以下、EEZ)の隣接国との境界画定にともない沿近海漁業を全面再編する重要な政策手段としての役割を果たす。すなわち、沿岸と近海水域を区分し、近海水域については企業的な資源管理型の漁業を実現させて国際的競争力を整えるべきであり、沿岸については完全な海洋生態系の管理を通じてつくる漁業を実現させるべきである。したがって海洋牧場事業の目標を次のように設定する必要がある。

(1)国家的に徹底管理する水域範囲の設定(沿近海水域の区分)、(2)沿岸漁業を海洋牧場漁業の体制に再編、(3)完全な海洋生態系の管理とつくる漁業の実現、(4)漁業生産の科学化の実現、(5)商業的な漁業とリクリエーション漁業の均衡の達成。

b. 推進方向

以上の目標を実現させるための戦略として表1のように3段階に推進するのが望しい。第1段階では、5海域で国がモデル事業を実施し、定着性の資源を中心に、約15,000~20,000M/T規模とする。第2段階では、各地方自治団体が中心となりモデル海洋牧場を拡大造成し、開発事業に転換する。対象魚種の定着性魚種だけでなく回遊性魚種へと拡大する。生産量は約150,000~200,000M/T。第3段階では、約500カ所、全沿岸を海洋牧場化する。漁業人及び民間企業が事業主体となり、既存の養殖漁業および各種の資源造成事業の大部分がこの事業に吸収される。生産量は、現在の養殖漁業及び沿岸漁業の生産量を超える1,500,000~2,000,000M/Tに及ぶであろう。

■表1.韓国海洋牧場事業の長期発展計画
区分第1段階第2段階第3段階
目標海洋牧場基盤造成海洋牧場拡大全沿岸海洋牧場化
事業性格モデル事業開発事業一般事業(実用化)
事業主体国家地方自治体漁業者、民間企業
投資対象定着性資源回遊性資源にも拡大全沿岸資源
物量5カ所50カ所500カ所
事業期間1998~2010年(13カ年)2005~2014年(10カ年)2015~2030年(16カ年)
生産量(M/T)15,000~20,000150,000~200,0001,500,000~2,000,000

2.モデル海洋牧場事業のMASTERPLAN

■韓国における海洋牧場事業計画イメージ
韓国における海洋牧場事業計画イメージ

a. 推進戦略

海洋牧場モデル事業の基本構想は、韓国を囲む3面の海域特性を勘案して選定したもので、表2に牧場の類型を示した。慶尚南道統營と全羅南道は数多くの島を活用する多島海型、慶尚南道と全羅南道はリアス式沿岸で魚類育成基地として活用する。西海岸は潮汐干満の差がはげしく、干潟がよく発達しているので干潟型にし、水中では魚類を、干潟ではハマグリ等貝類を対象とする。濟州道は海域が清浄で暖帯性の魚類が多く棲息する海域であり観光資源を生かした水中体験型にする。東海岸は海岸の屈曲が単純で水深が深く、内陸の太白山脈を中心とする陸上観光地とリンクした寒海性高級魚種を活用した観光型牧場として開発するのが理想である。

モデル海洋牧場造成は、初年度を除いた7カ年を3段階に分けて実施し、1~2年度目は基盤造成の段階、3~6年度目で牧場の適用及び実用化段階、7年度目で最終点検の段階である。推進体制は、関係官庁、学界、漁業人、企業を対象として事業推進団を構成し、漁場造成、資源造成及び牧場の利用・管理分野別の研究陣を編成して実施する。

■表2.モデル海洋牧場事業の基本概念
区分 慶尚南道(統營)全羅南道 西海岸 濟州道 東海岸
牧場類型多島海型多島海型干潟型水中体験型観光型
目標魚種クロソイ、メバルヒラメ、クロダイクロソイ、ハマグリ、甲殻類イシダイ、アワビ、マハタカレイ、アワビ、ハタテガイ
種苗馴致方法音響、光音響、光音響音響音響
海流制御方式人工魚礁、海流遮断装置、消波堤人工魚礁、海流遮断装置、消波堤人工魚礁、海流遮断装置、消波堤人工魚礁、海流遮断装置、網遮断装置人工魚礁、湧昇構造物、網遮断装置
養成施設人工魚礁、藻場人工魚礁、藻場人工魚礁、藻場、魚介類移動防止用網遮断施設人工魚礁、自然海藻場人工魚礁、自然海藻場
その他施設──────水中展望施設、海釣桟橋水中展望施設、海釣桟橋
投資期間9年7年7年7年7年

b. 投資計画

5つのモデル海洋牧場を建設するのに必要な資本は、約200億円と見積られる。本事業は国が実施するモデル事業であるから国が大部分の投資額を負担し、自治体や漁業人及び民間投資を誘導するのが望ましい。民間資本の確保方策としては、たとえば各沿岸に立地している原子力発電所、埋立干潟事業団、鉄鋼会社及び臨海工団等が対象になろう。民間企業にとっては、海洋牧場事業に投資することで、海洋環境を破壊しているという社会的非難を減らすことができるだけではなく、付近の漁業人に支払う社会的な費用を減らすことができる。

3.海洋牧場の問題点

技術上の問題としては、たとえば放流後に対象生物を願ったとおりに定着させる技術も問題である。また、海洋牧場で再生産が達成できる種苗放養尾数を正確に導出することや、優良種苗の生産に必要な優良親魚の確保も技術的課題である。

社会経済的な問題としては、第一に、海洋牧場の該当地域における漁民や漁村社会における協助合意形成の問題がある。第二に、海洋牧場では養殖漁業よりは他人の支配を排除できる排他的な独占権が弱い。第三に、牧場を造成、利用及び管理する主体の範囲に関する問題である。第四に、海洋牧場の対象魚種でない魚種を採捕する既存の漁場の漁業者をいかに排除できるかが問題である。第五に、海洋牧場を利用しようとする者が増加する場合、いかに調定するかが問題である。(了)

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