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オーシャンニューズレター

第30号(2001.11.05発行)

第30号(2001.11.05 発行)

韓国における海洋環境教育の現状と課題

韓国海洋研究院(KORDI)海洋環境・気候研究本部 責任研究員◆諸 淙吉

韓国では、1996年に「海洋水産部」が創設されたが、海洋環境や水産資源管理に関する問題がすべて改善に向けて動いたわけではなかった。その後、沿岸域管理法と湿地保全法の制定など大きな前進はあったが、これらの制定に大きく貢献したのは、むしろ市民レベルでの海洋環境教育にあり、いまでは国家レベルでの海洋環境教育の質的な発展が目指されている。

1.干拓事業による環境危機から始まった海洋環境教育

1990年代、3方を海に囲まれた韓国においては、新しい海洋時代が開いたといっても過言ではない。過去、10数年の間には多くの大学で、海洋学科や水産資源学科などが開設され、海洋研究の基盤整備も大きく発展し、1996年には海洋環境、港湾、水産、海洋警察等、国のすべての海洋業務を総括する「海洋水産部」(日本の省に相当)が創設されたからである。しかし、不幸なことにこの時期は、その間潜在的に進行していた海洋環境や水産資源管理に関する問題点がいっきに露出した時期でもある。その中で一番大きな問題となり、長い間に社会問題化とされたものは干拓による問題であった。

1980年代まではそれ程大きな干拓がなかったが、1980年代の後半から1990年には、韓国全体の干潟の約25%が消失し、被害が大きくなるとともに、始華地区やSaemankum地区などの超大型干拓事業などが進められた。

国際的には、1992年のリオ会議以後、持続可能な利用とバランスある保全と開発に対する認識が広まった時期であり、韓国は1990年代に、海洋と環境に関連した多くの国際条約に加入した。そういう時期に1994年には防潮堤と干拓湖(始華湖)が完成された。ところが、始華干拓事業は2年も経たないうちに湖は汚染され、深刻な社会問題として発展した。このような干拓に伴う問題点は、国内外の動向を含めてさまざまなメディアを通じて国民に紹介されるところとなり、海洋と海洋生態系についての重要性が認識され始めた。"干潟は生きている"と幾つかの有名なTVドキュメンタリーなどが、このような認識を広めたのに大きく寄与したことは言うまでもない。

このような雰囲気に、1998年に国連が決めた国際海洋年と1999年のラムサ-ル条約の締約国協議、そして1999年以後今まで、全国的に激烈な論争が続いているSaemankum干拓事業問題などが背景となって、海洋教育の必要性は認識され、社会的にもそういう傾向となった。これをきっかけに韓国では、1990年代にやっと海洋教育に対する必要性が自然な流れのように提起され、さらに市民団体によって独自に海洋環境教育を始めるようになり、政府が沿岸域管理法と湿地保全法を制定する機運が醸成され、それが実現したわけである。

2.韓国の海洋環境教育の概括:環境部、海洋水産部、教育部の取り組み状況

海洋環境教育の必要性が提起され始めた頃の1997年、韓国海洋研究院の研究員はじめ一部の専門家らが国際海洋教育ワークショップを開催した。

韓国では、専門教育として海洋を教えている大学と一部の海洋水産関連の高校を除いては、今まで体系的に海洋についての学校教育はなかった。1990年代半ばまでの社会教育及び環境教育の分野では、海洋は除外された分野だということができる。一部の団体では海洋の教育を行ったが、科学的探検と開拓を強調することが多く、体系的な海洋環境教育というには不足だった。

始華湖の問題が社会的な問題となり、湿地の重要性が知られるようになってから民間環境団体によって、海洋(主に干潟)で体験教育または、生態系の体験ができる現場の訪問ということで教育が自然に広がり、一部の学校と社会団体に拡大していった。

この時期に韓国海洋研究院では、沿岸統合管理に必要な関連当事者の環境教育を試験的に実施したことがあった。そして、1997年には海洋環境教育の国際ワークショップが韓国海洋研究院と梨花女子大学、自然史博物館などの共同主催で開催された。さらに、1998年には緑色連合により、干潟の環境教育者養成のための訓練課程が設けられ、そして、1999年に韓国海洋研究院に海洋環境教育者の養成のための訓練課程が開設され、現在もこれは続いている。今までの3年間に、韓国海洋研究院の訓練課程を終了、または終了する予定者の民間団体の教育指導者、一般学校の教師、大学の教授、大学生と大学院生、そして主婦などは、あわせて約140数名になる。

海洋環境教育は生態観光、保護区域管理と密接な関係があり、これらの有機的な関係は海洋環境を保存するのに大きく寄与することができる

1990年代半ばには、海岸を訪問した人々は大きく増え、それに海洋教育のために訪問したケースも毎年急激に増加した。江華島南端の干潟の場合、1990年代始め頃にはほとんどなかった環境教育の現地視察者ともいうべき訪問者が、2000年には約7,000名以上にもなった。

環境教育を一番積極的に支援する「環境部」はこのような民間団体が主導する海洋環境教育を部分的に支援し、1998年に環境教育の広報及び教育の国家戦略を策定した。翌年、「海洋水産部」は国家海洋環境保全の戦略のなかに海洋環境教育の分野も含めた。そして、「教育部」が主導する第7次教科課程の改編内容中には水産、海洋系高等学校だけを対象とする科目ではあるが初めて"海洋環境"と"海洋汚染"という海洋環境教育関連の二つの科目が開設され、2002年より実施される計画である。

3.今後の課題:海洋環境教育の質的な発展を

これまでに詳細に述べたような発展にもかかわらず、韓国の海洋環境教育分野では至急に解決しなければならない課題が多く残されている。まず、社会教育の比重が量的にも急速に大きくなったのに比べ、学校教育の正規教科の課程では体系的な海洋に関する教科内容がかなり不足している。これは教材開発の努力と資格を整えた教師の養成が不足していることであり、教育にたずさわる人でも海洋を理解する専門家が少ないこともその原因である。このような問題は社会教育にも大きな違いはない。民間による環境及び社会団体の教育活動にもかかわらず、海洋に対する理解が間違っていたり、教育内容を体系化することができず、現場の体験教育に偏った傾向を見せている。

このことから、学習者のレベルに応じた教育内容を細分化して適切な教材を開発し、教師を養成し学校教育と相互的な補完を追求すれば、比較的に短い時間内で多くの問題点を解決できると考えられる。体系的な海洋環境教育は、生態観光(エコツーリズム)、保護地域の管理、生態系の復元、沿岸管理などにおいて関連当事者間のトラブルを解消し、事業の目標を理解するのに非常に有用であり、活用されるに違いない。

今まで韓国の海洋環境教育は、基礎よりも量的に発展したことから一部問題が生じたが"海洋とその環境が私たちにとっても重要だ"という認識を与え、政府が海洋環境保全に関して、より積極的な関心を持たせることに大きく寄与してきた。海洋に対する関心の増大は、政府が湿地保全法を策定することに大きな役割を果したことはもちろんである。今後は、海洋環境教育の質的な発展を目指し、海洋環境保全がこれからも着実に行われ、うまく機能させるようにするという課題が残っている。(了)

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