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オーシャンニューズレター

第307号(2013.05.20発行)

第307号(2013.05.20 発行)

韓国の海洋プラント産業の発展方策について

[KEYWORDS]海洋プラント/国産資機材/クラスター基盤
東義大学 副教授◆具 京模

韓国造船業は受注量および受注額の両面で世界トップを守っているが、今後は海洋プラント建造部門が輸出主力となることが予測されていることから、韓国政府は2020年の海洋プラント受注額の目標を、世界シェアの25%とすることを決め、主な4つの対策を備えた「海洋プラント産業発展方策」を決定した。
韓国の海洋プラント産業の発展に取り組む様子を紹介する。

はじめに

世界的な景気の落ち込みのなか、2012年に韓国造船業は受注量および受注額の両面で世界トップを守っている。受注量は750万CGTで、世界の35%を占める。受注額は299.8億ドルである。とりわけ、ドリルシップ分野で世界発注量の67%を受注しており、海洋プラント※1建造部門が輸出主力として脚光を浴びている。韓国造船メーカーの収入構造においても、2011年から海洋プラント受注額が商業用船舶の受注額を追い越している。商業用船舶の供給過剰が今後も続くことが予想されるなかで、韓国造船産業が海洋プラント・船舶部門の受注に一層の力を入れることは間違いないだろう。全世界の海洋プラント市場は、2010年に1,400億ドルの規模を持ち、2020年には2.3倍の約3,200億ドルになると見込まれている。このような造船市場の環境変化を考慮して、韓国政府(知識経済部)は2020年の海洋プラント受注額の目標を、世界の25%シェアーにあたる800億ドルに定めている。
この目標を確実に達成するために、2012年5月9日に李ミョンバク大統領の主催する第121次非常経済対策会議で、主な4つの対策を備えた「海洋プラント産業発展方策」を決定した。それは、(1)国産資機材の競争力強化、(2)専門的な人材養成とエンジニアリング力量の確保、(3)プロジェクト開発から建造にいたる総合競争力の確保、(4)海洋プラント産業のクラスター基盤の造成を骨子とするものである。本稿では、以上4つの方策について、現在および今後における韓国の海洋プラント産業の発展に取り組む様子を紹介する。

国産資機材の競争力強化

韓国の3大造船企業(三星重工業、現代重工業、大宇造船海洋)は海洋プラントの建造実績と建造技術において世界をリードしているが、それらを構成する各資機材の国産化は遅れており、ノルウェーやアメリカ等の先進国に大いに依存している。この状況を改善すべく韓国政府は2012年2月14日に海洋プラントの資機材産業活性化の対策を発表し、核心部品の資機材開発や支援基盤の強化を通じて、現在20%の水準の国産化率を2020年までに35%まで引き上げ、市場も140億ドルの規模にする目標を明らかにした。
そのため戦略的な品目(100種)を選定し、産・学・官の専門家による「技術協力委員会」を構成する一方、多数の支援事業を通じて技術開発や先進企業との技術提携等を進める計画である。また、専門研究機関の設立も進めており、釜山(江西区美音地区)に「海洋プラント資機材R&Dセンター」を2012年8月に開所した。なお、韓国造船産業の集積地とも言われる慶尚南道では、2020年まで約6億ドル(6,800億ウォン)を投入し、海洋プラントを始めとする造船資材、クルーズ・レジャー船舶の3大戦略分野のビジネス創出や企業競争力強化、技術育成に長期的な投資を行う計画もある。
資機材開発と平行して国産品の納品実績を確保するため、韓国政府は、韓国ガス公社等が発注するプラント建造案件に国産メーカーの開発資機材を優先的に使用するように企業間のMOU(覚え書き)締結を促す一方、韓国ガス公社等が海外資源開発メージャーなどとガス導入(輸入)契約をするにあたって、プラント建造の発注先が資機材納品リストに韓国資機材メーカーをベンダー登録させることを条件にするなど、積極的に取り組んでいる。

専門的な人材の育成と技術力の確保

韓国は海洋プラント建造分野では優れているが、基本的な設計から、海洋プラント完成後の運搬、設置、運営、補修・管理という他の分野では脆弱と言われている。そこで、海洋プラントにおけるエンジニアリング、設置、国際輸送、管理に関わる人材育成が急務である。このような問題に対して、2011年韓国海洋大学は国内で初めて「海洋プラント運営学科」(35名定員)を新設し、先導的な役割を果たしている。
また、今後この分野の増加する人材需要に迅速に対応するため、韓国政府は2013年3月8日に「海洋プラント専修大学(4年制大学および大学院)の支援事業」を発表し、海洋プラントの設計・建造・維持管理に至る全製品ライフサイクルをまとめる専門的な人材の供給増大に積極的に関与している。その他にも、造船業界は企業内の研修・訓練課程を活用して商船部門の人材の再教育によって海洋プラント全体の技術力量の確保を模索している。

総合競争力の確保

韓国は、資源開発からエンジニアリング、そして建造と資機材開発までの海洋プラントにおける総合力をより向上させるために、石油やガス公社が今後投資する海上鉱区を用いて総合力を蓄積していくつもりである。例えば、2012年2月から始まった「韓・豪エネルギーおよび海洋プラント分野における企業間技術協力委員会」等の資源保有国との国際協力窓口を活用して、資源開発の経験やエンジニアリング技術を海外から習得する一方、国内で保有している設計と建造の経験を合体することで総合力の向上に対応する予定である。また、2011年9月にたちあげた「プラント・金融協力委員会」を通じて、韓国側はシンガポールの海洋プラント企業に対してビジネス機会を提供し、シンガポール側は韓国の企業に対して投資・融資の協力を行う相乗効果が期待される。

クラスター基盤造成

現在、朝鮮半島周辺である渤海湾、その他カムチャッカ半島、サハリン等に約30カ所で海上の石油・ガス鉱区が開発中ないしは計画推進中にある。このような北東アジア地域に急速に増える海洋プラント市場を支援する基地として、韓国は市・道別に分業構造のインフラを造成する計画をもつ。具体的には、釜山市には資機材のユニット生産、人材供給および技術交流の役割を、蔚山市には建造、資機材のモジュール製作を、慶尚南道には建造と資機材の試験および認証を、全羅南道には海上プラント支援船を、ソウル市と大田市にはエンジニアリングと人材供給を、特化して担う分業体制による価値連鎖を完成する狙いがある。またそれぞれの市・道地域産業と各研究基盤施設をネットワーク化して、これらの協力により能力を増強させるため、産学融合地区の造成事業を支援する計画もある。(了)

※1 海洋プラント=海洋石油・ガス等を発掘およびボーリング、生産する設備。それぞれの海底鉱区の地形、気候、生産物特性に合わせて最適化されており、価格より検証された技術や品質を最優先する分野である。プラットフォームは用途でボーリングと生産があり、固定式にJack-upとGuyed Tower、浮遊式にSemi-SubmerabileやFPSO等がある。

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