Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第307号(2013.05.20発行)

第307号(2013.05.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆先の3月7日、南ぬ島(ぱいぬしま)石垣空港がオープンした。国内では東京、名古屋、大阪、福岡とのあいだで直行便が飛ぶ。沖縄県下では従来通り、石垣と那覇、宮古、与那国をつなぐ。さらに不定期ではあるが、韓国の仁川、台湾の桃園(台北)と花蓮を結ぶ国際便が発着する空港となった。かつて琉球王国時代、明・清国との冊封体制のもとで朝貢交易が頻繁におこなわれた。各種の貢納品や交易品を満載した進貢船が那覇と福州(現在の福建省)をつないだ。進貢船が東シナ海を横断するさい、高い島々からなる尖閣列島は航路上の道しるべとされていた。
◆筑波大学の尾﨑重義氏は、尖閣列島の領有権をめぐる諸問題にふれ、国際法的な観点から日本の主張の正当性を提起されている。日中および琉球の歴史史料には尖閣列島を示す島名の記載はあるが、領有についてふれた記事はない。日本の領土として編入されたのは日清戦争終末期の1895(明治28)年1月21日の閣議決定時である。それ以前、尖閣列島はまったくの無人島であったのではない。1870年代中葉以降、琉球列島産のヤコウガイ(夜光貝)が輸出用産品として注目されるようになる。古賀辰四郎という商人が差配し、糸満系漁民によるヤコウガイ素潜り漁が尖閣列島の島々でおこなわれた。また、島に生息するアホウドリの羽毛を目当てとする活動もおこなわれた。ヤコウガイが貝ボタン用などの輸出産物とされたのは近代以降のことであるが、古代・中世から南島産のヤコウガイを大量に出土する遺跡が奄美諸島や沖縄の久米島にあり、中国や本土向けの交易品となっていた歴史も記憶にとどめておきたい。
◆現代における東シナ海の領有問題の背景には、石油・天然ガスのエネルギー資源の権益がかかわっていることはあきらかだ。渤海湾から北の海に目を移すと、韓国がすさまじい勢いで海洋開発プロジェクトを進めていることがわかる。東義大学の具 京模氏によると、産官学の連携による韓国の海洋プラント開発構想は隣国である日本の立ち位置を自省するうえでも大きな示唆をあたえる。
◆さらに目を中東地域に転じると、ペルシャ湾のホルムズ海峡にあるケシム島の現状について、同志社大学の中西久枝氏によるレポートが注目される。気になるのは、政局不安定なイランのなかで、圧倒的な中国パワーが多くの開発事業に自国労働者を送り込み、経済特区における利権を着実に獲得している点である。
◆尖閣列島の領有について、かつて明治政府が清国を意識した外交を展開したさい、琉球をどう処遇するか苦悩したに相違ないが、現代においても米軍基地移転や台湾との漁業交渉問題にあるように、海の国境をもつ沖縄が東アジアのホットスポットであることはまちがいない。(秋道)

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