Ocean Newsletter
第302号(2013.03.05発行)
- 岩手県知事◆達増拓也
- 宮城県知事◆村井嘉浩
- (財)国際高等研究所チーフリサーチフェロー◆田中 克(まさる)
- ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男
岩手・三陸の「海洋エネルギー資源」を生かした復興の実現
[KEYWORDS]三陸復興/海洋再生可能エネルギー/海洋産業創出岩手県知事◆達増拓也
岩手県では、海洋基本法の施行を受け、平成21年に『いわて三陸海洋産業振興指針』を策定し、海洋資源の活用や海洋産業の創出に取り組んできた。
平成23年の東日本大震災津波により甚大な被害を受けた三陸沿岸の復興を果たすため、眼前の「海」を改めて大きな資源として捉え、これまでの取り組みを加速させ、海洋再生可能エネルギーを通じた研究拠点の構築や事業化を進め、新しい地域を創造していきたい。
東日本大震災津波の被害と復興計画
2011(平成23)年3月11日に東日本を直撃したマグニチュード9.0の大地震とそれに伴う巨大津波により、多くの尊い命と財産が失われました。生活や交通のインフラ、市街地なども大規模に破壊され、2012(平成24)年12月末現在、死者4,672名、行方不明者1,171名、仮設住宅生活者38,908名(16,400世帯)となっています。
こうした中、2011(平成23)年8月11日に安全の確保、暮らしの再建、なりわいの再生の3つを基本原則とする『岩手県東日本大震災津波復興計画』を策定し、現在、防災のまちづくり、復興住宅の整備、沿岸部の基幹産業である水産業の再生など早期の復興に全力を挙げています。また、同計画では、長期的な視点に立ち、復興を象徴し、世界に誇る新しい地域の創造を目指す「三陸創造プロジェクト」を掲げており、国際研究交流拠点や三陸エコタウンの形成など、その実現にも動き出しています。
三陸の海洋資源を生かした復興
被災前、岩手県では三陸沿岸の海の多様な資源を生かし、新たな産業創出と地域振興を図るため、2009(平成21)年12月に『いわて三陸海洋産業振興指針』を策定し、海洋研究機関の集積等を生かした海洋研究の拠点形成や海洋再生可能エネルギー開発プロジェクトの誘致等に向けた取り組みを進めてきました。これらの取り組みは、震災・津波により激変した海洋生態系・水産環境の回復、長期間に渡る停電等の防止、新たな産業・雇用の創出など、被災地における課題を解決するために極めて重要であり、中長期的な時間を要すことから、復興計画の三陸創造プロジェクトとして位置づけ、海洋環境・生態系研究拠点の形成、海洋再生可能エネルギーの研究拠点形成やその導入・利活用を図ることとしています。
現在、海洋環境・生態系分野においては、文部科学省の大型プロジェクトである「東北マリンサイエンス拠点形成事業」が、東京大学大気海洋研究所や北里大学、(独)海洋研究開発機構等を中心に、大学・研究機関や漁業協同組合等と密接に連携しながら、調査研究が行われています。県としては、三陸沿岸の海洋研究機関や自治体等で構成する「いわて海洋研究コンソーシアム」の活動を通じて、その成果を漁業・水産関係者にフィードバックするとともに、国内外の研究者等とのネットワークの拡大を図っていきます。本県沿岸域は、海岸線のほぼ中央に位置する宮古市近辺を境に、北側は隆起海岸で海食崖や海岸段丘が発達し、南側は北上高地のすそ野が沈水してできたわが国を代表するリアス式海岸であるなど、多様な地形となっています。このため、沿岸北部では遠浅な海底地形、中南部では急深かつ多様な海象を持つ海域となっており、海洋再生可能エネルギー分野の研究から実証まで幅広く活用できる可能性があると考えています。

■釜石沖合から三陸リアス式海岸を望む。
沿岸北部における着床式洋上ウィンドファーム
沿岸北部においては、風力ポテンシャルが高く、遠浅な海底地形であることから、着床式の洋上ウィンドファームの事業化を目指しています。
このため、2012(平成24)年5月、同地域の漁業協同組合、商工団体、大学、行政機関等と連携しながら、海洋再生可能エネルギーに関する調査・研究や利活用方策を検討することを目的として、「いわて沿岸北部海洋再生可能エネルギー研究会」を立上げました。有識者や専門家を講師に招き、国内外の状況や漁業との協調の在り方等について理解を深めるとともに、当該地域における着床式洋上風力発電の導入に向けた課題の明確化とその解決方策について検討を進めています。これまでの検討では、洋上風車による振動や海中音によって、本県の主力水産物であるサケ等回遊魚への影響を心配する声があげられており、今後、国内外の各種調査研究や専門家の意見、国等の洋上風力発電実証事業による調査なども参考にしながら、県としても調査事業を実施して、課題を解決していきます。
実証実験フィールドの誘致
沿岸中南部においては、多様な海底地形や海象を利用し、浮体式洋上風力発電や波力発電等の実証実験フィールドを設置して、新たな産業の創出を目指しています。
2012(平成24)年5月、国の総合海洋政策本部では「海洋再生可能エネルギー利用促進に関する取組方針」を決定し、実証実験フィールドの国内整備を進めることとしました。アジア初となる海洋再生可能エネルギーの実機規模での実証フィールドは、世界中の研究者や企業による知の集積が進むほか、研究機関やメーカーの立地・集積、雇用の創出などの大きな経済効果が期待されます。本県では、その誘致に向けて、平成24年度には、沿岸域における海洋エネルギー・ポテンシャルの実測調査や海域利用状況調査をはじめ、漁業者や地域の方々との意見交換を実施しています。また、海洋エネルギー開発の世界最先端をいく英国スコットランドのEMEC(European Marine Energy Centre)の関係者を本県沿岸域に招聘し、講演を通じた地域の理解、機運の醸成や現地踏査による評価、協力関係の構築を進めています。
海洋再生可能エネルギーで新たな三陸を
今般の震災からの復興は、単に元に戻すのではなく、これまで以上のものを目指し実現していくことと考えています。被災直後に必要だったエネルギーの確保は三陸沿岸域の共通の思いであり、基幹産業である水産業の高付加価値化も強く求められています。
海洋再生可能エネルギーは、これらの課題に応えるばかりでなく、その可能性は新たな三陸振興の要として重要と考えています。今後とも皆様方の御指導、御支援をよろしくお願いします。(了)
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- 編集後記 ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男