Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第302号(2013.03.05発行)

第302号(2013.03.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆2月15日にロシア南部のチェリャビンスク州に落下した隕石は、その励起した衝撃波により、多くの建物に被害を与え、飛散したガラスなどで、千人以上の人々が負傷したという。たまたま翌16日には直径45メートルの小惑星「2012DA14」が地球に最接近し、いつにない空からの脅威が世界を駆け巡った。隕石の落下と言えば、1991年にメキシコのユカタン半島で発見された直径180キロに及ぶチチュルブ・クレーターが有名である。この隕石衝突は地球全体に深刻な影響を及ぼし、恐竜の絶滅を招いたとされている。地球物理学的には隕石の落下はそれほど珍しいものではない。風化作用が存在しなければ、地球の表面は月面のように大小のクレーターで満ちているはずである。この風化作用の主因は水の循環にあり、その源は海にある。海の存在こそが地球環境を極めてユニークなものとしているのである。
◆地の内部からの衝撃が、凄惨な被害をもたらした東日本大震災から、ほぼ二年の月日が過ぎようとしている。今でも多くの方々が仮設住宅での生活を余儀なくされているが、復興への槌音が日増しに強まっているのは救いである。今号は各地の特性を生かした復興への努力を取り上げている。岩手県の達増拓也知事には復興計画の中でも特に洋上風力や波力を活用する再生可能エネルギーの利用促進について、宮城県の村井嘉浩知事には、その豊かな歴史と風土を生かした観光による復興計画についてご紹介していただいた。
◆巨大な地震と津波がもたらした大惨事は、一方で人工物により遮断されていた森、川、干潟、湿地と海の連関を復活させ、海の生態系を蘇らせている。田中 克氏はこのような生態系の再生を遮断しかねない巨大なコンクリートの建造物 ― 防波堤 ― の建設に警鐘を鳴らしている。海と山の幸を知る縄文人は、同時に海の恐ろしさも熟知し、海岸段丘の上に住んだ。今回の大津波でも貝塚遺跡があまり被害を受けなかったという報告は示唆に富む。昔の人々には「地を相する」知恵があったのである。寺田寅彦は晩年に次のように書き遺している。少々長くなるが引用させていただきたい。「昔の日本人は集落を作り架構を施すにはまず地を相することを知っていた。西欧科学を輸入した現代日本人は西洋と日本とで自然の環境に著しい相違のあることを無視し、したがって伝来の相地の学を蔑視して建てるべからざるところに人工を建設した。そうして克服しえたつもりの自然の厳父の揮った鞭のひとうちで、その建造物が実に意気地もなく壊滅する、それを眼前に見ながら、自己の錯誤を悟らないでいる・・・」。昭和10年に書かれた随想であるが、なんと含蓄のある言葉であろう。叡智に富む防災計画が望まれる。(山形)

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