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オーシャンニューズレター

第2号(2000.09.05発行)

第2号(2000.09.05 発行)

民族、海へ
~わが国初の本格的洋上大学の実現へ~

海事懇話会代表理事◆茂川敏夫

海洋国家でありながら沿岸民族に留まるのは如何なものか。昨今、ようやく航海への関心は高まって来ているものの、汎国民的な普及とはいい難い。その突破口のひとつを「洋上大学」の設置に託する。

わが国は四囲を海に囲まれた海洋国家でありながら海洋民族とはいい難く、海浜から海を眺めて暮らしてきた"沿岸民族"であるといわれている。幕府の鎖国政策や明治以来の軍事国家的行動の中で自由闊達な海上の往来が進展しなかった事由は存在する。

しかしながら平和国家となり経済的飛躍の中で、近年、ようやく世界一周を含む大航海を体験する機運が隆昌してきていることは慶ばしいことであるが、その実を見ると未だ少数の有閑者層の享受する対象物で、汎国民的普及の路線に繋がるものとはいい難い。ことに21世紀に中枢となる次世代人に海洋を身を以て識る体験航海が与えられる社会的な制度、システムは望むべくもない現況であることを、私は憂慮し、良い方策はないものかと考える。

そこで、具体的プランとして、公私立大学に新学部として「洋上大学部」を設置し、専用の洋上大学船による航海で単位を取得するという構想の検討を提案したいのである。

本案については、アメリカのペンシルベニア州、ピッツバーグ大学の洋上大学船が代表的な事例として世界的に知られており、一航海3ヶ月で世界を一周し、年2回の実施時にはわが国も訪問先として選定される等、十数年の実績を既に有するものである。

翻って、わが国でも洋上大学を開講した事例はあり、東南アジア、オセアニア海域を巡って太平洋諸国の歴史、社会、環境、生活文化等、多岐に渡る講座を現地での交流、そして航海体験を大学生活の中に身につけるなど、それなりの意義を挙げているものの、継続的企画とは成り得ず単発に終わっているのは残念である。もちろん、そこには今後解決しなければならない学校制度から船舶の問題迄多くの課題が残されているが困難な障壁とは思わない。

その解決事の一つに、大学開講期間外の余剰期間に専用船の有効利用を如何に図るかという問題があるが、これもわが国が今、直面しているところの、高齢化社会のライフプラン構築の最前線に位置するものとして、「海と人間」「海と日本人」等々のテーマクルーズを、中高年を対象に企画し、参加しやすい案件を付与すれば充足されるものと思われる。

とかく、海とか海洋というイメージは、陸上での日常の生活感覚に結びつき難い面もあるが、洋上大学船で大海原に乗り出し、そこで海の匂い、海の色、海に棲む生物を肌で感じ取る時に、われわれ人間は地球のよってきたる成因を識りたいと思わずにはいられないのではなかろうか。20世紀は人類が宇宙へと視点を向け、21世紀は海や大地の奥深くを探索することによって宇宙を識る幕開けとなろう。

また、固く構えることもない。太陽がいっぱいのクルージングの中、船と並んですばらしいジャンプを見せるイルカの群れに拍手を贈り、「生きていて良かった」と呟く老婦人の心の中には、そこが海の動物の楽園であることがしっかりと把握されている。

いずれにしても、日本民族は、21世紀には、沿岸民族のレッテルを返上して、真の海洋民族となり、世界の海洋民族とも共生の感覚を身につけた若者、そして中高年者のニッポンを目指して頑張りたいものである。

私はここに、大いなる効果を期待して「洋上大学専用船」の誕生を提案したい。

 

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