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オーシャンニューズレター

第298号(2013.01.05発行)

第298号(2013.01.05 発行)

改正離島振興法への期待

[KEYWORDS] 格差是正/住民定住促進/ソフト施策の拡充
(財)日本離島センター理事長、長崎県壱岐市長◆白川博一

超党派の議員立法として改正が実現した離島振興法には、離島振興に対する国の責務規定などが盛り込まれ、従来のハード整備支援に加えて各種ソフト支援施策の大幅拡充が図られた。
同法をはじめ離島振興関係法と海洋基本法などにもとづく各種施策によって離島住民の安定定住と経済活動の持続を図り、わが国の重要領域を確保し、海洋の保全と利活用を模索することは、真の海洋島嶼国家を見据えた必然の方策である。

離島の実情と住民の声を踏まえた画期的な改正法

2012年6月20日、全国の離島関係者が注視していた改正離島振興法(離島振興法の一部を改正する法律)は、参議院本会議において全会一致で可決成立、2013年4月1日から施行されることとなった。1953年、超党派の議員提案立法として制定された同法は、以後10年ごとに延長を繰り返し、今回で6回目の改正となる。
この法律は当初、離島の「後進性」を解消するために、高率国庫補助事業で電気や水道、港湾や漁港、道路など社会資本を整備し、医療や教育などの環境改善を図る根拠となっていたが、離島を取り巻く経済社会状況の変化とともに、その理念や目的も変化してきた。1993年の改正で「海洋資源の利用」ほか離島の担う重要な役割がはじめて謳われ、永く離島振興の根幹認識だった「本土との隔絶性がもたらす後進性」は、続く2003年の改正で「わが国の領域保全を担う重要性」と改められ、排他的経済水域の保全などの多様な国家的・国民的役割とともに国益に資する存在としての離島の位置づけが明確化された。また、2007年制定の海洋基本法(第26条)にも、海洋資源の開発・利用など離島の役割の重要性が明記されるに至っている。この度の法改正に向け、日本離島センターでは、2009年度に「島の将来を考える研究会」を組織し、海と空の交通政策推進や定住環境整備などを骨子とする振興策を提言。2011年11月から半年間に及んだ法改正協議には与野党の国会議員が参画し、現地視察などの結果をもとに建設的な議論が積み重ねられた。その結果、離島振興に対する国の責務規定や主務大臣の追加(計7大臣)が盛り込まれ、従来のハード整備支援に加えて各種ソフト支援施策の大幅拡充が図られるなど、議員提案立法の鑑と言うべき抜本的な大改正となった。まずは、離島の実情と住民の声を踏まえた画期的な法制定にご尽力いただいた国会議員各位、省庁の方々をはじめ関係者の皆様に厚く御礼申し上げる。

定住施策推進に必要な予算措置

わが国の離島人口は昭和30年から半世紀を経て半減、高齢化率は全国を20~30年ほど先取りしている。地域経済を支えてきた第一次産業の疲弊と低迷、就労の場と機会の不足、4割が無医島という状況下では受診や出産、介護サービスに対する不安感や経済負担がのしかかり、教育や情報格差の問題も住民定住の大きな足枷となっている。航路・航空路は就航の不安定さに加え、本土側公共交通機関と比べて割高な旅客・貨物運賃が大きな隘路となっており、離島市町村で組織する全国離島振興協議会では、格差是正と住民定住促進の原則に立った積極的な支援方策を強く要望してきた。
こうした諸課題に対し、改正離島振興法では、基本的な格差是正は国の責務であるとし、各島の実情にもとづく振興施策の推進は離島側が計画し、国が支援するという骨子を提示、住民の安定定住を支えるきめ細やかな支援施策が明記されることとなった。とりわけ、離島の生命線である交通施策については、目的条項に「人の往来及び生活に必要な物資等の輸送に要する費用が他の地域に比較して多額である状況を改善」と掲げられ、「交通の確保等」に人流物流費用低廉化への特別配慮が謳われ、附帯決議にも新法の制定を含む航路・航空路の維持支援策の検討が明記されている。
また、新設された「離島活性化交付金」制度は、具体的なメニューはこれから政令で定められ、都道県計画にもとづいて事業が実施されることとなるが、これまで各年度の予算措置で実施されてきた国のソフト施策にも法的根拠が与えられ、予算の確保がより確実なものとなるはずである。流通効率化や高校生修学支援などの既存事業に加えて、妊婦の健診・出産支援など離島地域の活性化に資する新設ソフト事業実現への期待も大きい。
われわれ離島側にとっては、市町村の離島振興計画案作成にあたって「住民意見を反映させるための必要な措置」が規定されたことで、住民の意向を踏まえた実効性のある計画案の策定が喫緊の課題である。検討条項が盛り込まれた「離島特区制度」の創設にあたっても、自主振興に懸ける島側の意思と創意工夫が試されていることは言うまでもない。
その他、海洋関連の新設条項としては、海岸漂着物等の処理に対する配慮ほかを明記した「自然環境の保全及び再生」、再生可能エネルギーの利用推進などを謳う「エネルギー対策の推進」、地震・津波災害などによる孤立防止策を規定する「防災対策の推進」などが挙げられる。いずれも、これら法の精神を汲み、具体的な予算措置と大胆な規制緩和措置などを望むところである。

真の海洋島嶼国家を見据えて

世界に冠たる海と島の国・日本の礎は、有人・無人含めて7,000ちかくを数える離島の存在である。改正法の附則に、特に重要な役割を担う離島への特別措置の検討が明記されているが、近年の近隣諸国の海洋進出状況に鑑みても、外海・内海を問わず離島定住の促進と無人化の防止は必須であり、わが国の重要国土である離島の保全と振興は、もはや地域振興の範疇にとどまらず、国益に直結する最重要課題と捉えねばならない。
わが国には離島振興法のほかに、奄美(1954年)・小笠原(1969年)・沖縄(1972年)の各地域振興の根拠となっている特別立法がある。それぞれ1946年のわが国からの行政分離と、順次復帰という歴史的背景をもとに制定されたものだが、今回の改正離島振興法に示された理念や骨子は、来年度改正期を迎える奄美・小笠原の各振興開発特別措置法へも少なからず影響を与えるものと考える。
2012年改正された沖縄振興特別措置法を加えた4法と海洋基本法などにもとづく各種施策によって離島住民の安定定住と経済活動の持続を図り、わが国の重要領域を確保し、海洋の保全と利活用を模索する。それは、まさに時代の要請であり、真の海洋島嶼国家を見据えた必然の方策である。(了)

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