Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第298号(2013.01.05発行)

第298号(2013.01.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆新しい年が明けた。その昔、王朝時代の女性たちは鏡餅を前にして新年を寿ぎ、「天地(あめつち)を袋に縫いて 幸ひを入れて持たれば 思うことなし」と三べん唱えたという。幸せな年を招来しようとする強い願いはいつの時代も変わらないものである。現代の私たちを取り巻く政治、経済情勢の混乱は一向に治まる気配を見せないが、今年こそ、よりよき未来に向けて力強い一歩を踏み出す年にしたいものだ。
◆近年、生態系を含む表層環境と人間活動の齟齬がますます増幅し、地球本来の物質循環系が乱れている。代表的なものが水循環や炭素循環の乱れである。地球環境を管理するには、自然の変動と人間活動を含む外部要因による変化のメカニズムをよく知り、その知識に基づいて適切な行動指針を立てることが重要になる。物質循環には物理学、化学、生物学的なプロセスが関与しており、その科学的理解には細分化された科学分野を越えた連携が必要になる。進行する環境の劣化に対処し、持続的な「未来の地球(Future Earth)」の構築に貢献してゆくには、政策担当者や社会の人々と協働することが不可欠である。世界科学者会議(International Council for Science)はRio+20を契機にして、持続可能な「未来の地球」を実現すべく壮大な計画を立案中である。社会のための科学を、多様な地域性、歴史性も尊重して、持続的な社会形成に向けて推進できるかどうか、今年は私たちの叡智が問われている。
◆「未来の地球」は持続可能な「未来の海(Future Ocean)」を実現すること無くしてはあり得ない。目下、平成20年度に策定された海洋基本計画の見直しに向けて活発な議論がなされているところであり、この新春号では総合海洋政策本部参与会議座長の小宮山 宏氏に検討状況と提言概要について解説していただいた。いずれパブリックコメントの募集も行われるはずである。ご参考にしていただきたいと思う。
◆水惑星ともいわれる地球の水循環の源は海である。その海に浮かぶ島々がわが国には七千近くもある。多くが無人島であるが、有人離島に関して、本土との往来や定住環境の整備を地域社会とともに推進すべく、昨年6月に改正離島振興法が議員立法により成立した。本年4月から施行される。日本離島センター理事長の白川博一氏にはここに至る経緯とポイントをご説明いただいた。特に、今回は地域社会との協働を活性化するソフト施策にも法的根拠が与えられた。より良き未来を離島にもたらす法律になることを期待したい。
◆広い海を知り、適切な施策を実現するには宇宙からの視点が欠かせない。今号ではわが国初代の宇宙飛行士である毛利 衛氏にご登場いただき、地球環境と人とのつながりを広く大きな視点から俯瞰していただいた。地球に海がなかったら、地上気温は既に40度も上昇しているはずである。環境変化を和らげている海、私たちの体を巡る水の源である海の役割に私たちはもっと関心を寄せなければならない。地上に帰還した毛利氏が最初に受け取って一気に飲み干したという自然水の美味しさは、さぞ極上だったに違いない。(山形)

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