Ocean Newsletter
第297号(2012.12.20発行)
- 東京財団上席研究員◆平野秀樹
- 三重県水産研究所 鈴鹿水産研究室 主任研究員◆国分秀樹
- (独)港湾空港技術研究所理事長◆高橋重雄
- ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌
編集後記
ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌◆いまから100年以上前の明治時代、明治漁業法が1901年に制定され、1910年に改正された。この時点以降、全国各地の沿岸域における漁業権が確定された。その記録が「明治専用漁業権原簿」であり、全142分冊からなる。原簿の登録総数は5,489件であり、当時の日本には、それだけの数の漁業を営む単位が存在していた。大正、昭和を経た平成23年時点では漁業協同組合の統合、廃止などを経て、その総数は明治期の24%までと大幅に減少している。日本の沿岸域は多くの場合、漁業協同組合により物件として保有、管理されている。なかには、埋め立てや海岸の改変によって漁業権が消滅した場所も少なからずある。空港や工業地帯の建設、住宅地の造成などを通じて日本の海は大きく変わってきたわけだ。
◆こうしたなかで日本全体を俯瞰して海面の所有と利用に関する情報を網羅的に把握することは国家として当然の責務であろう。しかし、現状はそうではない。東京財団上席研究員の平野秀樹さんは、日本の離島のみならず沿岸域や陸地の水源林が外国人に買収される例が増えている実情を指摘されている。日本の不動産売買のシステムに大きな欠陥があり、諸外国にくらべて国境域や海岸部における外国人の所有を大きく制限する法的な整備が遅れているということだ。事は尖閣列島や竹島だけではないことをわれわれは認識すべきであり、情報が行政により把握されていないことは国家的な危機につながる。政府を中心に全国的な取り組みを即開始すべきであり、不動産業界へのテコ入れも考慮すべきだ。
◆3.11以降、東北の沿岸域は津波によって海水をかぶり、いまなお「塩害」の状態にある。地盤沈下で満潮時に海水が進入する範囲も広がった。いったん塩水をかぶった土地を元のように復旧するには膨大な経費が必要だろう。この点で、汽水域に変化した地域をそのままの状態で再活用する計画を進めたほうがいいとする考えは傾聴に値する。東北の塩害地域だけにかぎらず、干潟や藻場をふくむ沿岸地域の再利用と生物生産の向上を目指す試みがある。三重県水産研究所の国分秀樹さんは英虞湾で未利用の沿岸遊休地を再生、利活用するプロジェクトを官民一体で進められている。先述した日本の海の所有権問題とともに、干潟や藻場の活用にむけてきめ細やかな調査と政策の実施が緊急の課題といえるだろう。
◆港湾空港技術研究所の高橋重雄さんは今回の地震津波の調査・観測に深くかかわるなかで、海を未知のフロンティアとするこれまでの認識を脱却すべきと主張されている。わたしは海にはまだまだ未知の現象があると信じて疑わないが、沿岸域における問題でさえ十分な対応がなされていない現状に深刻な反省が必要と考えるがいかがだろうか。(秋道)
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