Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第295号(2012.11.20発行)

第295号(2012.11.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆3.11から1年8カ月が経過した。東日本大震災からの復旧・復興が進むなか、復興のための政府予算が被災地以外の自治体に配分されたことに疑問を抱いた人も少なくないはずだ。政府の説明では防災に関連するとの答弁に終始したものの、東北の現場を軽視した措置と受け取られてもしかたあるまい。復興にむけて縦割り行政が優先することも問題だろう。今年2月10日に開庁した復興庁はまさに復興政策を飛躍的に推進するための機関だ。本号で復興庁法制班主査の続橋 亮さんに、その役割と施策について解説いただいた。現在、政局が混迷するなかで、復興庁の果たす役割はかぎりなく大きい。復興庁は10年時限の組織であるが、復興が今後10年で完了するともおもえない。今回の地震直後、大津波の襲来は予測できた。しかし、その情報が正確かつ迅速に政府へと伝わらなかった。天災であり、人災でもあったことをわれわれは再確認しておきたい。
◆過去10年間の7年にわたり、東シナ海で大発生したエチゼンクラゲが日本沿岸に到達した。日本海だけでなく、津軽海峡を抜けて太平洋岸に入り東北沿岸を南下した。一方、エチゼンクラゲはそのまま北上して宗谷岬を越えてオホーツク海に入り、知床まで達した年もあった。広島大学の上 真一さんはエチゼンクラゲ大発生に関して精力的に研究をされてきた方だ。エチゼンクラゲの大発生は自然現象ではなく、さまざまな人為的な要因の集積による。三峡ダムにより、長江上流部からの土砂が下流に運搬されないので起こる海域へのケイ酸塩の供給不足、プランクトン食の多獲性表層魚の乱獲、クラゲのポリプが定着しやすいテトラポッドなどの沿岸構造物の増加などの要因がそうだ。温暖化によって水温が上昇し、冬季でも死滅しなくなったことも元をたどれば人為が深く絡むだろう。海の異常は人間の営みと無縁でないことを確認しておきたい。上さんはエチゼンクラゲの発生状況を予測するため、日本と中国を結ぶフェリーに調査員を同船させて個体数を確認する方法をとった。来年はエチゼンクラゲ大発生と予測されている。尖閣列島問題でフェリーが欠航する状況下にあり、調査の継続がどうなるか心配だ。
◆群馬大学の片田敏孝さんは、岩手県釜石市における防災教育と深くかかわってこられた。津波はこわいことにかわりがないが、それを「おどし文句」として教育に使うのではなく、海とまともに向かい合う「姿勢の教育」を提唱されている。教育のあり方に一石を投じたものと評価したい。海は災禍だけでなく恩恵を与えてきたことをわれわれも十分に認識しておく必要があるだろう。釜石市の小学校の生徒が津波襲来時にどのような判断と行動をとったかを検証するテレビ番組を見た。大人が子どもたちの生き方を学ぶことになった。海の未来を背負う次世代にエールを送りたい。(秋道)

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