Ocean Newsletter
第294号(2012.11.05発行)
- 早稲田大学名誉教授、海洋政策研究財団特別研究員◆林 司宣
- 独立行政法人海洋研究開発機構 理事長◆平 朝彦
- 琉球大学工学部 電気電子工学科 教授◆藤井智史
- ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男
編集後記
ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男◆このところ頻繁に台風が発生している。これまでのところ数の上では平均的であるが、今年は勢力の強いものが多い。エルニーニョ現象の年には西太平洋の海水温は低く、積雲活動は不活発で、台風はあまり発生しないというのが学界の通説である。しかし、フィリッピン周辺海上では積雲活動が相変わらず活発で、とてもエルニーニョ現象が発生しているようには見えない。海の温暖化の影響が徐々に顕在化してきたのかもしれない。
◆温暖化に加えて、環境の劣化が進む地球において、私たちは社会を持続的に発展させてゆかねばならない。地球が生命体の生存可能な惑星であるのは海があるからであり、この海と共生することなくして文明とそれを育んだ地球環境の持続可能性はありえない。しかし、有限の地球にあって、国家レベルでの持続可能性の追求は、激しい国家間の相克を生む。深海底などの開発には科学技術先進国と途上国の利害の衝突がますます激しくなるであろう。海の資源と環境を人類の共同資産という視点から、力ではなく法に基づいて利害を調整する枠組み「国連海洋法条約」が採択されて、今年は30年の節目の年である。林 司宣氏にはこの条約の意義と今後の問題点について解説していただいた。わが国はこの画期的な条約を1996年に批准し、同年7月20日に施行した。そして、この日を海の日として祝日にしたのであった(現在は7月の第3月曜日)。海水位の上昇、深海底の遺伝子資源、大陸棚の限界策定、新しい観測機器の登場などで海洋法は科学面の新しい問題に直面しており、法そのものが進化せざるを得ない状況にある。わが国も海洋政策や外交と海洋科学技術が交錯する分野において、学際的な専門家を育成する必要がある。
◆平 朝彦氏にはわが国を代表する(独)海洋研究開発機構の今後の役割について解説していただいた。海洋基本法には海を知り、海の環境を護り、そして持続的に活用することが謳われている。これを実現するには、基盤となる科学と技術の振興が不可欠であり、世界の海洋先進国は21世紀を海洋の世紀として、代表的な研究開発機関を充実させてきた。わが国においても、長期的な視野をもって海洋研究開発とそれを担う人材の育成を進めて欲しい。
◆四方を海に囲まれた島嶼国家であるわが国にとり、離島と沿岸域を総合的に管理することは、漁業、海洋開発、環境保全、安全安心、安全保障など多くの面から極めて重要である。広い海域の管理には人工衛星による宇宙からの情報と海の現場からの情報を統合的に活用する必要がある。この点で、海洋表層の流れや波などの物理データを広範囲で取得する高周波海洋レーダーは貴重であり、沿岸域の総合的管理の一環として、国際的に観測網の整備が進んでいる。ところがわが国では大学や研究機関が期間限定プロジェクトとして展開して来たため、既存のレーダーも消失の危機に瀕している。この分野を国際的に先導してきた藤井智史氏から、こうした現状を憂えるメッセージをいただいた。海洋レーダー網の整備は国境周辺海域の海事の安全安心の確保にも極めて有効であり、ここでも科学と政策の叡智ある連携が強く望まれる。(山形)
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- 編集後記 ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男