Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第288号(2012.08.05発行)

第288号(2012.08.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆今年は春先からオホーツク海高気圧が強勢である。北からの冷気と南海上にある高気圧の西偏に沿って北上する湿潤な暖気がせめぎ合い、7月中旬に九州北部は集中豪雨により大きな災害を被った。阿蘇市では4日間の降雨量が800ミリを越えたという。昨今は気候変動により梅雨時に台風が襲来するなど、季節の輪郭が不明瞭になっている。わが国の短時間最多雨量は1982年7月に長崎県長与町で観測されたもので、一時間あたり187ミリである。この年は6月頃にエルニーニョ現象が発生し、翌年にかけて世界各地に異常気象を引き起こした。今年も東太平洋熱帯域には良く似た状況が出現している。これがエルニーニョ現象に発達するかどうか、目が離せない。
◆今号では中村桂子氏に宇宙全体の視点から地球と生命、そして母なる海の存在を捉えていただいた。個々の科学の視点からではなく、総合的なアプローチによってはじめて俯瞰することのできる世界が簡潔に描かれている。身の回りの事象に目を奪われがちな私たちにとって、目指すべき持続可能性やよき生とは何なのかを改めて考えさせられる。
◆ところで、とある会合に出席した折に、わが国の外航船の三割以上を所有し、大きな国際的影響力を持つ愛媛船主の存在を知った。税法上の問題などから、このユニークな実業形態の存続が危ぶまれているという。そこで、日野 満氏にご登場いただき、愛媛の海運業の現状と課題について解説していただいた。平安時代にも遡る瀬戸内海運と造船の共生の歴史が培った、海運業、造船業、金融業の有機的連携の話に目から鱗が落ちた読者もおられるのではないだろうか。
◆足利由紀子氏には、瀬戸内海の西端に位置する大分県中津干潟における里海再生に向けた地域社会の合意形成の成功例を紹介していただいた。自然環境下における多様な生態系を維持することと生物資源の活用は相反する概念ではない。これは里山が実証してきたことである。近くて近い海を復活するには固定観念にとらわれずに、開かれた議論のもとで、丁寧に地域社会の合意形成を目指す心構えこそが大切であることを知る。(山形)

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