Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第286号(2012.07.05発行)

第286号(2012.07.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/前東京大学大学院理学系研究科長)◆山形俊男

寬仁親王殿下が6月6日にご薨去されました。殿下には平成20年新春号に「民間外交の鑑~海からつながる日本とトルコの友好~」をご執筆いただいております(https://www.spf.org//jp/news/151-200/178_1.html)。殿下の気さくなお人柄を偲び、編集者一同、哀心よりお悔やみ申し上げます。

◆6月8日は「私たちの海、私たちの責任」を謳う世界海洋の日(World Oceans Day)であった。ちょうど20年前、1992年の国連環境開発会議(リオ・サミット)でカナダが提案し、2009年からは国連の記念日となっている。折しも、リオデジャネイロではリオ・サミット20周年を記念して国連持続可能な開発会議(リオ+20)が6月20日から3日間開催されたこともあり、今年の世界海洋の日はひときわ意義深いものとなった。産業革命以降、大気中の二酸化炭素濃度がどんどん上昇し、今や年平均値で395ppmにも及んでいる。付随して海の酸性化も進行し、甲殻類が殻をつくれなくなるなど海洋生態系への影響が危惧されている。リオ+20ではユネスコの政府間海洋学委員会(IOC)などが中心になり、全球海洋観測システム(GOOS)の一環として、海の酸性化を監視する観測ネットワークを整備することが提案された。
◆豊かな海洋生物資源の恵みを私たちは漁業活動によって受けてきた。しかし、海の生態系に迫る人為起源の危機に加えて、わが国では漁業就業者が年々減少し、漁業活動が担ってきた海域監視、海上安全確保などの安全保障機能も弱体化しつつある。山下東子氏には海の生物、鉱物、エネルギー資源の適切な利用と安全保障を総合的にとらえる視点の重要性を解説していただいた。
◆本年3月に国立公園に関して画期的な報道がなされたが、あまり知られていないようだ。陸域と海域の面積がほぼ等しい霧島錦江湾国立公園が指定されたのである。浜本奈鼓氏にはこの経緯と意義を解説していただいた。四方を海に囲まれた日本列島の美しい自然は森・川・海のつながりによるものである。豊かな自然の恵みを適切に受け取り、未来世代に引き継ぐには、セクターを超えたつながりを総合的にとらえる視点が欠かせない。ユニークな霧島錦江湾国立公園がこうした視点を広く国民に啓発することを期待したい。
◆うってかわって、大鐘卓哉氏には石狩湾で見られる蜃気楼「高島おばけ」と各地の類似現象を紹介していただいた。光の屈折による蜃気楼の原理と発生しやすい気象条件についてもわかりやすく解説していただいた。読者の方々も海や湖に遊ぶ楽しみが増えたのではないだろうか。光の屈折の物理学に大きな貢献をしたのは、近世哲学の祖、ルネ・デカルトである。もし「高島おばけ」に出合っていたなら、この哲学者はどのような解説をしただろうか。歴史のイフへの興味も尽きない。(山形)

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