Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第285号(2012.06.20発行)

第285号(2012.06.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆江戸時代、伊能忠敬らが日本全国の測量地図を完成させたことは周知のことである。測量は伊能の死後も継続され、地図は1821年に完成した。縮尺の異なる一連の測量地図は伊能図と呼ばれる。幕末、日本に開港を求めて来航した米国のペリー提督は江戸湾の海図を作成した。その後、英国海軍が日本沿岸域の測量を試みるが、すでに沿海について精度の高い日本地図があることを知り、伊能図を入手することで測量を中止。その後、英国から1863年に「日本と朝鮮近傍の沿海図」が発刊され、日本の全貌が世界に知られるようになる。19世紀後半は日本における測量技術が飛躍的に進歩した時期といえる。この間の事情を踏まえると、元日本水路協会の熊坂文雄さんが紹介されている明治初期の海洋に関する貴重な資料の公開によって時を経て形成された日本国の沿岸海図を目にすることができるわけで大歓迎だ。海上保安庁海洋情報部は江東区青海に移転した。最近開業した東京スカイツリーも人気だが、海を見つめる機会ももどそうではないか。
◆和歌山県田辺市にある田辺湾は黒潮の影響を強く受ける位置にある。田辺湾には夏場、黒潮に乗って南方の魚類がやってくる。ふつうは冬季の低温で死滅するが、温暖化の影響で年を越す魚も増えた。田辺湾の一角にある天神崎は地元で古くから親しまれてきた海岸の景勝地であり、背後の海岸林や湿地にはさまざまな生物が生息する。天神崎を有名にしたのは、日本におけるナショナル・トラスト運動の草分け的な存在であり、その後の環境保全運動の高まりのなかで注目されてきた点にある。過度な開発を抑制して、自然を保全する意義はますますその重要性を増している。海岸林を保全する意義も昨今の森里海連関学の思想に合致する。こうしたなかで、住民主体の運動のむずかしさも天神崎が経験してきたことだ。「天神崎の自然を大切にする会」の玉井済夫さんはその中核的な存在として活動を支えてきた。玉井さんが指摘するように、多様な活動の持続的な実施は簡単ではなく、多くの支持者とその参加が前提だ。海中の清掃をおこなうダイバーの皆さんの献身的な奉仕もその一つだ。海中にバイクを不法投棄するやからなど断固として取り締まるべきだろう。子どもたちへの啓発と海の教育は今後とも、運動の重要な一翼として位置づけていただきたい。
◆この6月中旬、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで「リオ+20」の国際会議が開催される。20年前の地球サミットから地球環境はどう変わったのか。世界中から多くの政治家や研究者、活動家が集まる。本誌の母体となる海洋政策研究財団からもサイドイベントとして6月16日に開催されるオーシャンズ・デイでの貢献が期待される。海洋政策を中核として、新しい時代における海洋のあり方についての提言に大きく期待したい。とくに、沿岸域における総合的な管理、里海の創生、南シナ海における海洋の安全保障、海底資源の開発、風力発電の可能性など、多くの課題があることを明記しておきたい。会議の結果が楽しみだ(秋道)

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