Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第284号(2012.06.05発行)

第284号(2012.06.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/前東京大学大学院理学系研究科長)◆山形俊男

◆東日本大震災後、二度目の初夏が巡ってきたところで、またもや大災害のニュースである。これまでにない規模のトルネードが複数発生し、益子町やつくば市などが大きな被害を被ってしまった。大気の密度は海水にくらべて三桁近くも小さいが、異常な旋風とそれに伴う気圧の低さは、津波に匹敵するような破壊力を生む。
◆今回の異常気象の原因は、遠い太平洋熱帯域にあると分析している。昨年から、熱帯太平洋にはラニーニャ現象によく似てはいるが、その構造や世界各地への影響がかなり異なる現象が起きている。これを私たちはラニーニャモドキと呼んでいる。この現象が日本列島付近を東進する低気圧を次々と発生させ、平年とはかなり異なる春をもたらしていた。加えて、強勢なオホーツク海高気圧が停滞して、寒気が日本列島に吹き込んでいた。ゆく手を遮られ、蓄積した低気圧とオホーツク海高気圧の境界に沿って、南方海上から湿った大気が日本列島に送り込まれ、積雲活動が活発になっていたのである。
◆私たちの生活に大きな影響を与える異常気象の根本的な原因は、海にあると言って過言ではない。今号では日本の気候にも大きな影響を与えるインド洋の観測システム構築に向けた活動について、ゲイリー・マイヤース氏と升本順夫氏に紹介していただいた。これは1992年にリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)」に基づいて、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC/UNESCO)、世界気象機関(WMO)、国連環境計画(UNEP)、国際科学会議(ICSU)が連携して進める全球海洋観測システム(GOOS)の一環をなすものである。こうした国際共同観測計画は先進国間の連携だけでなく、発展途上国が国際社会と協調してゆくためのよき場ともなっている。官庁統廃合により、わが国には海洋に関係する現業官庁、研究開発機関と大学などの研究者を連携させ、二国間、多国間、国際間の海洋調査を総合的に推進する仕組みが無くなってしまった。その悪影響が、海洋科学技術外交の様々な面で現れているように思う。持続可能な社会の形成には、まず足元の海洋をよく知らねばならない。UNCEDから20年が経過した今年の6月にはリオデジャネイロでRio+20という大きな会議が開かれる。今年は海洋基本計画の見直しの年でもある。海洋の物理、化学、生物の調査と観測を総合的に推進する仕組みを復活させる好機ではないだろうか。
◆加えて、梅田直哉氏には国際海事機関(IMO)においてわが国が中心的な役割を果たしている非損傷時復元性基準の見直しについて解説していただいた。現国際基準が数少ない事例による経験則と半経験則に基づいているとは驚きである。わが国は科学技術の粋を結集して、新しい世界標準の導入にどんどん貢献して欲しいと思う。稲葉和美氏には、沿岸域総合的管理を実現する新しい里海のあり方について、志摩市の先進的な取り組みに基づいて解説していただいた。地域の歴史を大切にして、海と社会のよき関係を構築してゆくには、豊かな発想が大切である。環境との共生には、里山や里海に象徴されるように、地域の風土に根ざした持続的なビジネスモデルを導入する必要がある。(山形)

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