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Ocean Newsletter
第284号(2012.06.05発行)
- CLIVAR-GOOSインド洋パネル設立提唱議長、CSIRO海洋大気研究名誉フェロー、タスマニア大学名誉研究教授◆Gary Meyers
JAMSTEC地球環境変動領域 短期気候変動応用予測研究プログラムディレクター、CLIVAR-GOOSインド洋パネル元共同議長◆升本順夫 - 大阪大学大学院工学研究科准教授◆梅田直哉
- 志摩市生活環境部長◆稲葉和美
- ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/前東京大学大学院理学系研究科長)◆山形俊男
インド洋観測システム(IndOOS)
[KEYWORDS] 海洋観測/国際協力/社会経済的応用CLIVAR-GOOSインド洋パネル設立提唱議長、CSIRO海洋大気研究名誉フェロー、タスマニア大学名誉研究教授◆Gary Meyers
JAMSTEC地球環境変動領域 短期気候変動応用予測研究プログラムディレクター、CLIVAR-GOOSインド洋パネル元共同議長◆升本順夫
近年、インド洋は世界の経済大国、軍事大国にとって、地政学的関心および戦略的計画の焦点となっている。アジア、ヨーロッパ、アメリカ大陸の国々のなかには、インド洋航路でエネルギー資源や石油が自由に輸送されるのが不可欠である。中国とインドが経済大国として台頭してきたことから、インド洋に利害ある多くの国の戦略的計画には競争感や警戒感が忍び寄ってきている。
本稿はインド洋観測システム(IndOOS)の展開およびその地域緊張を緩和する役割について概観する。
インド洋観測の重要性
■図1
インド洋における海洋観測システムとその社会経済的応用の概念図。直接あるいは様々な機器を利用した観測システムによって集められたデータは、天気/気候/海洋予測モデルによる予測を通じて利用者に届けられ、様々な場面で利用される。
オーストラリア国立大学のサンディー・ゴードン教授は、最近のインド洋域における地政学的状況を憂慮して「自国の利益を優先させて争うより、他国との協調を求めるべきである」※1と述べている。特に公海上での環境変動や自然災害などの脅威に対して、関係諸国の協力が不可欠であることを指摘した。現在、インド洋に展開中であるインド洋観測システム(IndOOS)※2はまさにこのような国際協調を具現化するものであり、さらにIndOOSにより得られる観測データを社会経済活動へと応用利用することで、多くの社会的問題の解決に貢献できる可能性がある。
IndOOSは世界海洋観測システム(GOOS)の地域活動の一つと位置づけられ、総合的で長期間の高品質データをリアルタイムで提供する観測システムである。WCRP(世界気候研究計画)のCLIVAR(気候変動および予測可能性研究計画)およびインド洋域GOOSの下に設置された専門科学者による委員会(インド洋パネル)によって2006年に作成された実施計画に基づき国際的な調整が行われ、さらに2010年に設置されたIndOOSリソースフォーラム※3で効率的かつ継続的な運用と発展のための協議が進められている。IndOOSの観測データは気候変動研究に直接利用される他、農業、漁業、水資源管理等の社会経済活動に関わる施策へ科学的根拠を提供する気候変動予測に利用されるなど、広範囲で重要な役割を担っている(図1)。また、インド洋域の生物化学的諸量や生態系に関する観測も徐々に加わっていく予定である。
図2に示すように、IndOOSは洋上での長期観測が可能で、費用効果の高い様々な機器から構成されている。観測網の構築と維持には膨大な費用と労力がかかるため、IndOOSへの貢献機関に大きな負担がかかっていることは確かであるが、IndOOSリソースフォーラムの下での協力により、観測網の早期完成と長期維持が強く望まれている。
IndOOSの多様な観測機器
■インド洋観測システムと代表的な観測プラットフォーム。黒線は篤志商船によるXBT/XCTD観測線、緑色の四角はRAMAの係留系設置点、水色の丸印は検潮所および津波観測ブイの場所を表している。また、インド洋周辺には多数の地域観測網が構築されるとともに、短期間に集中的な観測を行うプロセス研究プロジェクトも幾つか行われている。
篤志商船による投下式水温計(XBT)や投下式水温塩分圧力計(XCTD)観測は、日本にとって大変馴染み深いものである。図2の黒線は代表的な商船の航路を表しており、これらの航路に沿って航行中4~6時間毎に船橋横などから測器を投下し、海中の水温や塩分濃度を測定する。各々の観測線上で、多い場合には年間12~18 回の観測が行われている。インド洋では1983年から開始され、IndOOSの様々な観測手法の中でも最も歴史の古いものの一つとなっている。開始当初から多くの日本の商船がこの観測に参画してきた。しかし現在、日本の貢献は予算と人的資源不足のため中断されており、主たる貢献国はオーストラリア、インド、南アフリカ、イギリス、アメリカとなっている。XBT観測は30年以上にわたり海洋内部の水温分布データを提供しているため、長期の変化や変動を把握するためにも、この観測を維持することが強く望まれる。
一方、数日から数年規模で大きく変動する様々な現象が互いに影響を及ぼし合っている熱帯域では、短い時間間隔で継続的に観測することができる係留ブイ網が不可欠である。このような観測を実現するため、アジア・アフリカ・オーストラリア モンスーン解析および予測のための研究ブイ網(RAMA)※4がIndOOSの主要な構成要素として構築されつつある。日本の研究者らが1999年に、インド洋熱帯域の東部と西部海域の間で、海面水温偏差が経年的にシーソーのように変動する現象を発見し、インド洋ダイポールモードと名付けた。このインド洋ダイポールモードを海洋内部の観測から捉える目的で、日本が2000年に最初の係留ブイを設置したことがきっかけとなってRAMAが発展してきたのである。今日では、計画されている46カ所の観測地点のうち30カ所に係留系が設置されており、日本、インド、アメリカ、インドネシア、フランス、中国および南アフリカの各機関がブイ網の維持、運営および拡充に当たっている。RAMAのデータは研究用途で利用される他、熱帯低気圧や高潮なども含めた気象予測や海況予測の改善に貢献するとともに、インド洋域での気候変動の予測とそれらが他の地域に及ぼす影響の予測精度向上などを通じて、インド洋域内外の多くの国で役立っている。
さらに、人工衛星を用いた海表面の様々な状況や大気変動の観測はIndOOSに不可欠の構成要素であり、高解像度データを日々提供している。インド洋域に限らず、地球規模の気候変動をより深く理解するためにも、海洋観測網と衛星観測との緊密な協力が今後益々重要となろう。海面漂流ブイや海中の漂流ブイもIndOOSにとって重要な観測プラットフォームである。Argoフロートと呼ばれる自動昇降型観測機器は、10日毎に深さ2,000メートルまでの水温と塩分を計測し、人工衛星経由でデータを転送してくる。現在3,000台以上のArgoフロートが世界中の海に投入されているが、その内のおよそ760台がインド洋域を漂流している。得られるデータは、気候変動研究はもとより、気象・気候変動予測に使われるコンピュータモデルの初期化などに利用され、リアルタイムでの大洋規模の水温塩分変動の把握を実現している。このフロートの投入や観測網の維持には国際的な連携が不可欠であり、オーストラリアと日本は米国に次ぐ主要貢献国となっている。
今後の課題
IndOOSは発展しつつも幾つかの問題に直面している。一つは、係留ブイの設置回収やArgoフロートの投入に必要な船舶が充分に確保できないことである。IndOOSリソースフォーラムの下での調整と協力は、限られた観測資源を最大限に活かし、インド洋域の観測データを継続的に入手するためにも重要な鍵となろう。もう一つは、北西インド洋域での最近の研究航海や観測を不可能にしている海賊の台頭である。多大な学問的、社会経済的利益をもたらすIndOOSを完成させ、インド洋域の観測データを継続的に得るためにも、強いリーダーシップと国際協力が必要である。(了)
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- 編集後記 ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/前東京大学大学院理学系研究科長)◆山形俊男