Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第283号(2012.05.20発行)

第283号(2012.05.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所名誉教授)◆秋道智彌

◆4月12日、京都の繁華街にある祇園で悲惨な交通事故が起こった。事故を起こした当事者を含めて8名が死亡し、19名もの負傷者が出た。事故の原因をめぐって現場検証と調査がいまも進められているが、加害者の死亡によって全貌はまだみえてこない。
◆本号で海難事故について取り上げられた国土交通省の大須賀英郎さんと金子栄喜さんのご意見を読むにつけて、上述の事故が陸上で起こったということを感ぜずにはおれなかった。現場検証のあり方は陸と海とではずいぶんと異なる。海難の場合、事故の調査が陸上におけるようにはいかないことは誰の目にも明らかだ。大須賀さんと金子さんは事故防止に向けたさまざまな取り組みの重要性を指摘されているが、被害者などへの情報提供と分かりやすい報告は海難だけにとどまらず、原発問題のような場合でも重要と思われる。安全向上が第一義的に重要であり、犯人探しが目的ではないという指摘を心して受け止めたい。
◆元九州大学の高橋孝三さんは日本の北極海における調査研究が世界的に見て立ち遅れている現状を訴えておられる。平たくいえば、砕氷船がないということだ。(独)海洋研究開発機構の保有する「みらい」は砕氷船ではないので、海氷の外縁部でしか調査ができないということだ。近い将来に北極海航路ができるとすれば、極東とヨーロッパがはるかに近くなることによる経済の変化、北極海における資源獲得の権益問題が浮上することなど、問題が多々起こることが予想される。北極海への進出は研究面だけでなく、わが国のルック・ノース(Look North)政策として抜本的に進めるべきではないだろうか。
◆昨年9月、高知県室戸市が世界ジオパークに認定された。日本では5番目の快挙である。世界ジオパークは単に地質・地形に関する自然面だけでなく、生活や文化、地域振興に貢献できる可能性が評価の大きなポイントとなる。そこには自然と人間の相互作用を重視する枠組みがある。室戸ジオパーク推進協議会の柚洞一央さんは持続可能な地域つくりのなかでジオパークを位置づけるべきとして、室戸における人と海とのかかわりについて江戸時代から現在に至る変化を概観されている。捕鯨業、カツオ一本釣り漁、キンメダイ漁など、室戸を取り巻く漁業も時代とともに大きく変遷してきた。こうしたなかで、冬場に室戸の磯で採集される地海苔が地域社会での贈答慣行に利用されてきた事例を挙げておられる。わたしは室戸岬沖の宝石サンゴ漁も加えて考察すべきだろうと考えている。一方、スジアオノリの陸上養殖が海洋深層水を活用して室戸市の「海の研究舎」で開発されている。新しい事業の取り組みもジオパークを継承するうえで大切なことがらだ。人と自然の共生をふまえた取り組みに期待しよう。(秋道)

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