Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第280号(2012.04.05発行)

第280号(2012.04.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/前東京大学大学院理学系研究科長)◆山形俊男

◆3月になってようやく梅の花が満開になった。「暑さ寒さも彼岸まで」というが、今年は彼岸でもコートとマフラーが手放せなかった。このように春の訪れが遅いのはラニーニャに似た現象が熱帯太平洋の日付変更線付近に居座り、中緯度の大気循環に大きな影響を及ぼしているためであると考えている。地球シミュレータを用いた予測モデルによると、この現象は初夏には完全に終息し、今年は普通の夏がやってくるようだ。中緯度地域の季節予測はまだ実験段階ではあるが、いくぶん少雨の予測が出ているのが心配である。
◆世界の歴史にも記録されるであろう、東日本を襲った大地震と巨大津波、それに起因する福島第一原子力発電所の事故から早くも1年が経過した。震災直後の混乱状況からは脱したが、未だに多くの被災者が困難な生活を強いられている。加えて、放射性セシウムの除染による廃棄物と瓦礫の処理問題が重く社会全体にのしかかっている。しかし、風評に踊らされることなく、多くの自治体に適切な対応への動きが見えてきたのは光明である。被災地の復興が一刻も早く軌道に乗り、日常性が戻ることを願うばかりである。
◆今回の大津波では宮古湾も大変な打撃を被ったが、海のスポーツの復興に向けて、橋本久夫氏から春の息吹を感じさせる力強いメッセージが届いた。海洋立国の基盤は国民が親しく海に接することにあり、海洋基本計画の改訂にあたっては海のスポーツやレジャーについても、これまでの施策をレビューして、支援体制を強化する方策を導入する必要がある。
◆向井 宏氏は東南アジアにおけるジュゴンの生態研究に基づいて、その保護には海と森の連環への配慮が重要であることを指摘する。海の生態系を守るには、川で繋がれた森の生態系を守り、育てることが不可欠なのである。海に戻った海草を専食する哺乳動物ジュゴンはまさに森と海の連環を象徴する存在といえるだろう。
◆長谷川眞理子氏は熱帯から極域に広がる世界の海の豊かさ、美しさを描き、それをむしばむ人為的な汚染が地球規模で進んでいることを危惧する。海を知り、守り、適切に利用するには、まず海をいとおしむ気持ちこそが大切であり、これには幼いころから海に親しむ機会を多く持つことなのだと思う。(山形)

第280号(2012.04.05発行)のその他の記事

  • それでも海に学んでいく NPO法人いわてマリンフィールド理事長◆橋本久夫
  • ジュゴンをめぐる森と海 京都大学フィールド科学教育研究センター 特任教授◆向井 宏
  • サンゴ礁の海、北極の海 総合研究大学院大学先導科学研究科生命共生体進化学専攻教授◆長谷川眞理子
  • 編集後記 ニューズレター編集代表((独)海洋研究開発機構上席研究員/前東京大学大学院理学系研究科長)◆山形俊男

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